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リレーエッセイ 2015・冬
山の上に生えている藻類がある 2/2/有賀 祐勝
世界における髪菜の分布

髪菜は中国のほか、モンゴル、旧ソ連邦、旧チェコスロバキア、フランス、モロッコ、ソマリア、メキシコ、米国などに分布することが知られていますが、先に述べたように水中に生育する藻類ではなく、土壌藻(soil algae)というよりはむしろ陸生藻(terrestrial algae)と呼ぶのが相応しい藻類です。このように水たまりや湿地が全くない乾燥した土の上ですから、生育に必要な栄養塩類は土壌(Ca含量が高く、NやPおよび有機物含量が低い)から、水分はごくわずかの雨と霧(大気中)から得ていると考えられます。また、内陸の高地ですから温度変化は非常に極端で、マイナス35℃からプラス87℃にも及ぶところ(年間平均気温5~9℃)です。髪菜の生育の好適温度は25~35℃と報告されています。採集したものは室温でそのままの状態で数年は生きたまま保存できるといわれています。また、このような内陸の山の上に存在するのは、恐らく太古の昔に海の中で生活していた藍藻が造山活動によって山の上に持ち上げられ、その中の一部のものが厳しい環境の下で生き延びたもの、すなわち遺存種(relict)であると言えるでしょう。

顕微鏡で見た髪菜の藻糸
図4 顕微鏡で見た髪菜の藻糸

図4は顕微鏡で見た髪菜の写真です。採集した髪菜の中から髪の毛状の1本をとって顕微鏡で見ると,微細な球形細胞が一列に連なった分岐のない藻糸が寒天質の基質の中に多数埋もれており、藍藻(シアノバクテリア)のネンジュモ属(Nostoc)の特徴がよく見られます。

中国では、昔から現地の人々は数日かけて岩陰などで野宿しながら髪菜を集めていました。1人1日の採集量は15~50 g程度であるとのことです。採集物は持ち帰ってから雑草やゴミなどを除去して保存し、商人に売り渡すかまたは国家農産品公司に納入します。この段階でさらに雑物除去と水洗が行われ、自然乾燥または機械(電気)乾燥されて最終的な商品となります。近年では採集が非常に頻繁に行われるようになったため資源不足となり,また採集の際に地面を荒らすので表土流出(環境破壊)につながる恐れがあるとして、中国政府は2000年6月に採集と販売を禁止したので採集はできなくなっています。このため、人工培養の研究が進められています。また、このように特殊な環境に生育する髪菜には大きな興味が持たれ、その生理生態的特性に関する研究も近年行われるようになりました。

日本では、髪菜は中国料理の食材としてだけでなく、健康維持のための機能性食品として利用されています。例えば、マイクロアルジェコーポレーション㈱では髪菜を原料としたマイクロアルジェ応用機能性食品「 阿拉善 アラゼン 」を生産販売しており、髪菜の生理学的・薬学的研究だけでなく培養に関する研究も推進しています。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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