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リレーエッセイ 2017・秋
海苔の脂質 2/2/天野 秀臣
海苔の脂質の性質と効用

脂質は水に溶けずに、エチルアルコール、ヘキサン、ベンゼンなどの有機溶媒に溶け、体の構成成分としてさまざまな生理活性を示します。脂質の分類法はいくつかありますが、ここではBloorによる大まかな脂質の分類を示します(図6)。このBloorの分類にならったスサビノリの脂質組成を表1に示しました。中性脂肪が少なく、複合脂質、特に糖脂質とリン脂質が多いことが分かります。

※各写真をクリックすると拡大します

図6 Bloor による脂質の分類
図6 Bloor による脂質の分類
表1 スサビノリの脂質組成

1. 脂肪酸について
私たちが脂質を摂取すると、酵素の作用で脂肪酸が遊離してきます。海苔の脂肪酸組成の一部を表2に示しました。飽和脂肪酸ではパルミチン酸が、不飽和脂肪酸では多価不飽和脂肪酸、特にn-6系が、次いでn-3系が多いことが分かります。私たちの体内で合成できない必須脂肪酸はリノール酸とα-リノレン酸の2種類ですが、海苔ではリノール酸が多く、α-リノレン酸はその約 1/10です。必須脂肪酸ではないが、特徴的な生理機能をもつイコサペンタエン酸(EPA)は脂肪酸総量の54.5%で極めて多く、このことが海藻を含め、他の植物にはない海苔の特徴です。飽和脂肪酸と一価不飽和脂肪酸は私たちのエネルギー源に使われ、一般には動物性脂肪に多いものです。海苔では100g 当たり飽和脂肪酸が0.55gで、一価不飽和脂肪酸が0.2gあり、両者の合計は脂肪酸総量の34%に達しています。飽和脂肪酸の摂りすぎは心筋梗塞を増加させる懸念がありますが、脳出血を減少させる傾向があります。二価不飽和脂肪酸で必須脂肪酸のリノール酸は、過剰摂取のリスクも知られるようになりました。海苔の脂肪酸の特徴であるn-3系のEPAは血小板凝集抑制作用による血栓症の低減、血漿の中性脂肪の低減効果があるとされています。近年はn-3系とn-6系脂肪酸は摂取バランス1:4が大切といわれるようになりました。

表2 乾し海苔の主な脂肪酸組成

2. 複合脂質について
糖脂質には、マウス由来神経芽腫細胞 (Neuro2a細胞) の増殖を阻害し, 高い神経突起形成能を示すものや、マウスの肝臓脂肪酸組成のEPA およびDHA含量ならびにn-3/n-6比を有意に高め、アラキドン酸を有意に減少させるものがあります。リン脂質には移植線維肉腫のメス-Aに対する発育阻止作用を示すものもあることが明らかにされました。複合脂質における機能性研究はまだ数少なく、今後の進展が望まれます。

以上、海苔の脂質についてその性質や効用の一部を紹介しました。食品成分の分析値は多くの場合可食部100g当たりの含有量で示されています。しかし海苔を一回に食べる量は多くても全形海苔(19cm×21cm)で1枚(約3g)程度です。したがって、取り込んだ成分の量は100g当たりの3%になります。海苔の場合には脂質含量が少ないので、通常の食べ方であれば、脂質に関しては過剰摂取を心配する必要は無いと思います。しかし、学術の進歩によって、過去には良いと思われていたことでも、後に訂正されることや、これまで知られていなかった効用が新たに分かることも多々あります。したがって、どのような食品でも一つの食品に偏重せず、バランスよく食べることが大切と思います。今後、海苔の有用成分を上手に利用する技術が発展することを願っています。

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執筆者

天野 秀臣(あまの・ひでおみ)

一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士

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