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リレーエッセイ 2017・冬
海草アマモの変わった利用法(アマモ葺き屋根の家) 1/2/有賀 祐勝
海草と海藻・最も長い植物名

海草(アマモ、スガモなど)は、海藻(ノリ、ワカメ、コンブなど)と同じように沿岸部の浅海に生育する植物ですが、海藻と異なり花が咲いて種子を結び、それで繁殖するので、陸上の草木と同じ種子植物です。また、地下茎でも繁殖します。海藻と同じような場所に生育していることから、藻類学や海藻学の教科書・図鑑では一緒に扱われることもしばしばです。海草は海洋沿岸生態系の中では海藻と共に基礎生産者として位置づけられます。日本沿岸では5科10属28種の海草が知られています。最もよく知られているのはアマモ(アジモ)でしょう。

「生物の名前(和名)で一番長い(文字数の多い)名前は何か?」などとクイズまがいのことがしばしば話題になります。その答えは海草アマモです。アマモは「リュウグウノオトヒメノモトユイノキリハズシ」という別名を持っています。カナ書きでは分かりにくいのですが漢字カナ交じりにすると「竜宮の乙姫の元結の切り外し」です。密生したアマモの長い葉が水中でたなびいているのを見て、乙姫さまの長い髪を束ねている元結を切り外した時の状況を想像して命名したのでしょう。

アマモ葺き屋根の古民家(農家)との出会い

1964年3月末に初めて海外に出かけることになりました。ユネスコ主催の2か月間の「第1回海洋生物学研修コース」に参加することになったからです。生れて初めて飛行機に乗りました。この研修コースはデンマークの海洋生物学者が中心になり、スウェーデンとノルウェーの海洋生物学者の協力を得て、開発途上国の若者のために行う海洋学分野の研修コースで、フィリピン、南ヴェトナム、マレーシア、インドネシア、インド、韓国、コロンビア、日本などから若手の研究者(冗談で「お前、自分で推薦書を書いてきたのではないか?」と言われるような中年も混じっていましたが)が15名ほど参加しており、2か月にわたってデンマーク各地の研究機関をまわり、時には2段ベッドの寮で共同生活しながら講義と実習を受けました。乗船による海上での研修(海洋観測とトロールなど)もありました。研修は英語で行われ、海洋物理、海洋化学、海洋生物、プランクトン、海藻、水産など広い分野にわたり、講師は大学教授レベルの海洋学の研究者が務めてくれました。

※各写真をクリックすると拡大します

写真1.  デンマークのレーセ島(Laesӧ)からコペンハーゲン郊外の野外博物館に移築された古い農家(1964)
写真1.  デンマークのレーセ島(Laesӧ)からコペンハーゲン郊外の野外博物館に移築された古い農家(2016)
写真1. デンマークのレーセ島(Laesӧ)からコペンハーゲン郊外の野外博物館に移築された古い農家
(左:1964, 右:2016)
写真2.  レーセ島の古い農家のアマモ葺き屋根(1964)
写真2. レーセ島の古い農家のアマモ葺き屋根(1964)

この研修には文化的歴史的施設への見学も含まれており、コペンハーゲン郊外にある野外博物館を訪ねた時、デンマーク各地から移築された古い農家を集めた展示コーナーがあり、その中に屋根をアマモの葉で葺いた古民家の展示があり(写真1, 2)、驚かされました。この時のことが、その後もずっと記憶に残っており気になっていましたが、2016年6月に国際学会がコペンハーゲンで開催された折に郊外まで足を伸ばして野外博物館を訪れてみました。52年ぶりの再訪でしたが、以前とほとんど変わらない佇まいでアマモ葺き屋根の農家は立っていました(写真1)。強いて言えば、屋根の上の雑草が増えている程度の違いでした。

このアマモ葺きの古民家は、元はデンマーク・ユットランド半島の東のスウェーデンとの間にあるカテガット海峡の小島(Laesӧ島)にあったもので、1730年代に建てられたものです。この小島には古い民家(農家)がかつては数百軒以上あったといわれますが、現在は約20軒残るのみとのことです。そのうちの一つ Kaline's Houseと呼ばれる家は1865年からのものだそうです。この小島に行って実際にアマモ葺き屋根の家が現在どうなっているかを見るのは大変興味深いことですが、日本から行くのは経済的にも時間的にもかなり大変だと思われます。

海草はどのように利用されてきたか

ところで、海草の利用について、これまで日本では浜名湖周辺の農村では肥料として使われたこと、イギリス、フランス、オランダ、北米太平洋沿岸などでは真水で洗って乾燥したものが蒲団綿の代用、家具類の詰め物、絶縁材などに使われたこと、スガモを製紙原料として上質のパルプが試作されたことなどが教科書に載っている程度で、上述のデンマークの古民家の屋根を葺くような規模の利用はよく知られていませんでした。しかし、海外で出版された書物を調べてみると、ヨーロッパ北大西洋地域やスコットランドの一部(特にスコットランド沿岸地方)では17世紀以前から海草葺きの屋根があって60年くらい長持ちすること、海浜の四阿式日除けの屋根に使われ、この場合には稲わらや麦わらより長持ちすること、ケイ素含量が高いためか燃えにくいこと、断熱材や防音材としての利用やエビ・カニの輸送用のパッキング材としての利用、枕・マットレスの充填材、包装用詰め物などとしての利用が書かれているものがあります。また、昨年テレビ放映された地中海西部にあるスペインの世界遺産イビサ島では断熱材として海草ポシドニアを屋根裏に入れている例が紹介されました。

食用としての視点から海草を見ると、アマモの地下茎は食用となりますから別名アジモとも呼ばれたわけです。ソロモン諸島マライタ島北東部のラウ・ラグーンに居住するラウ族 は アマモの種子を食べるとの情報もあります。また、北米北西海岸に住むサリッシュ族、ヌーチャヌル族、ハイダ族、クァクァカワク族は海草の種子・茎の基部(地下茎?)を食べる(採集した海草を束にして油に漬けて生食、乾燥種子を保存食としている)との報告や、クァクァカワク族は祭りに海草を食べるとの報告もあります。

一部の海草がインド洋や太平洋の熱帯・亜熱帯域でウミガメ(特にアオウミガメ)やデュゴンの餌になっていることはよく知られています。それはアマモ属、ウミジグサ属、ウミヒルモ属、ベニアマモ属、リュウキュウスガモ属などの海草です。

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