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リレーエッセイ 2022・冬
ノリの「バリカン症」と鳥類・魚類による食害 1/2
魚や鳥がノリを食べる

魚や鳥がノリを食べることは古くから知られていたことではありますが、「バリカン症」が注目されるようになった当初は、魚や鳥がそれほど大規模にノリを食べることは無いだろうと思われていました。しかし、漁場での観察がしっかり行われるようになってカモ類がノリ漁場でノリを沢山食べていることが確認されるようになりました。また、2000年代に入ってタイムラプスカメラや間欠ビデオカメラなどが長期的時系列観測に使用されるようになり、ノリ漁場における観察の精度が高まりました。その結果、魚類(クロダイ、ボラなど)や鳥類(オナガガモ、ヒドリガモなど)によってノリが大規模に食べられていることが各地で確認されています。魚が群れをなしてやってくると広い範囲で被害を受けることになります。魚類や鳥類の胃内容物の検査も実施されて、かなりの量のノリが食べられていることも確認されています。このように魚類や鳥類によるノリの食害は珍しくないことが認識されるようになり、その対策が急がれるようになりました。

瀬戸内海の漁場(香川県)では、船に水中用爆音機を備え付けて、ノリ網に集まってくる魚を爆音で追い払う試験が行われ、その効果が確認されています。しかし、爆音による魚の追い払いは、頻繁に行う必要があり、魚が爆音に慣れてしまうこともあって、効果は限定的のようです。また、東京湾の漁場(千葉県)では、ノリ柵を防除ネットで囲むことによって魚による食害を防ぐ試験が行われ成功していますが、この場合の防除ネットは養殖管理作業の妨げになるので、防除ネットの設置は食害の完全な対策とは言い難い面があります。

このように「バリカン症」として知られていた養殖ノリの被害の一部は、魚類や鳥類による食害が原因であることが確認され、対策がとられるようになりましたが、まだ完全な対策には至っていないのが現状です。なお、魚類による食害は近年増加の傾向がありますが、その原因は地球温暖化に伴う海水温の上昇が一因であると考えられるようになっています。海水温の上昇によって、食害をもたらす魚類(クロダイ、ボラなど)がノリ養殖シーズンにノリ養殖漁場にやってきて留まっているためです。海水温上昇の人為的なコントロールは簡単には出来ませんから、こうした食害を防御することは不可能に近いと言えそうです。

食害以外の「バリカン症」

「バリカン症」と呼ばれていたノリ葉状体流失現象の一部は、上述のように魚類や鳥類による食害の結果であることが明白になりました。しかし、これで「バリカン症」の原因がすべて明らかになったわけではありません。魚類や鳥類による食害とは別に、特に河口域でしばしば観察されてきた「芽いたみ」を含むノリ芽脱落やノリ葉状体流失は、その原因やメカニズムが依然として不明のままで、有効な対策はたてられていません。古くから「生理障害」であるとされてきましたが、真の解明が待たれます。特に漁場環境(水温変動、特定の化学物質を含む水質、潮流、淡水の混合など)とノリの生育との関係に関する科学的な基礎研究・調査が不可欠であると思われます。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会前会長、
公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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