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産地を追って no.18 海苔は天産物である!

【平成28年3月10日執筆、平成28年3月23日掲載】

1 天候に左右された新のり生産

昨年10月に始まった平成27年度のり漁期(生産時期:平成27年10月~平成28年4月)は、3月中旬の現在、全国的に終盤を迎えています。漁期開始前の昨年の秋は夏の延長の様な暑い日が多く、そのため、海水温の高い日(24~25℃以上)が続きました。加えて雨の日が多く、生産盛期にあたる12月中旬頃にはのり生長が思わしくなくなりました。このため、日本最大ののり産地である九州有明海では、11月14日に張込んだのり網(通称・秋芽網)からの生産を諦めて、冷凍庫に保管していたのり網(通称・冷凍網)と張り替えて生産を継続しました。

この10数年の間に海水温は平均1℃以上高くなったと言われています。昭和40年代は10月初めに採苗(種付けともいいます)を行い、のり網を漁場に張り込み、育苗(ノリ芽を育てることいいます)を開始しました。この当時は10月初めには水温が採苗、育苗に適した23℃台以下に降下したのですが、昨今は10月下旬まで待たなければ水温が降下せず、のり養殖開始の条件を満たしません。

漁場の水温が高いと、のり葉体の表面に海水中に浮遊するプランクトンなどが付着してのりの細胞膜が弱くなり、のり葉体の体質が弱くなって海中からの栄養成分を吸収する力が弱くなります。その結果、病害(のり葉体の生長を阻害し品質を劣化させるもので、人体に影響を及ぼすものではありません)が発生するとのり養殖漁場全体に拡がり、生長を始めたのり芽が潮流に流されたりして生産不能になることが多く見掛けられます。

その防止のため、のり網を高く吊り上げて日光に曝(さら)し紫外線を十分当てながら病害を抑えたり、のりの葉体に付着したプランクトンを小船に積んだ高圧ポンプの水圧で洗い落とす作業などが行なわれますが、その作業は大変な労力を要するため、十分に網管理が行えないことがあります。その場合は弱くなったのり芽が流されるなどの事態が生じ、生産枚数が大きく減少することになります。

のりを順調に生育させるための漁場での作業は、早朝から夜遅くまで続きます。特に今漁期のように漁期開始直後の育苗期に気温の高い日が続き、漁場の水温の低下が鈍い年は、休む暇もない忙しさが続きます。のり養殖漁家は高齢化しています。寒中の労働に対する収入への不安から、後継者の一般企業への就職も多くなり後継者は減少する一方です。

そのような中で、高齢の父母に製造工場内の製品選別などを依頼し、40~50歳代の夫婦が中心になって寒中の夜間に漁場での摘採作業を行わざるを得ないというのが現状です。

のり年度は9月から翌年8月までとなっています。そのため、現在ののり養殖年度は2015年度(平成27年度)ということになります。今年度は、秋らしい涼しさを感じられない日が多く、漁場の水温がなかなか下がらないまま養殖を開始した地区や、水温の降下待ちで養殖開始が遅れた地区など、地区毎にばらつきが多い年度でした。そのため、全国の生産枚数は少なく2月末日現在までの生産枚数は約51億枚で、昨年同期の59億枚に対して8億枚も少なくなりました。一方、各地区共同販売(共販)の平均単価は12円53銭/枚で前年同期と比較して1円19銭高くなっています。

このように自然条件(気象の変動による海の状態の変化)によって生産状態が大きく左右されるのが海面養殖業の大きな特徴であり、その結果生産される天然産物であるのりは安定した生産量を確保出来ない難しさがあります。

2 人工的に種付けは出来ても、育てるのは「海」

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