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産地を追って no.19 熊本市・宇土市の「のり産地」、地震・豪雨で大きな被害

1 余震と豪雨に泣かされるのり漁家

連日、余震は続いています。しかし、テレビ、新聞で報道されるのは震度3以上のものがほとんどです。その恐怖心に追い討ちを掛けるように梅雨入りとともに連日豪雨が襲い掛かりました。

しかも、6月20日の豪雨は、熊本市、宇土市の降雨量が過去最高の120mmに達し、特に宇土市の住吉町、網田(おうだ)町に豪雨被害が出ました。網田町長浜地区は街中を灌漑用水が走っていますが、裏山の崖から大きな石が落ちて用水路の一部を塞ぎ、大雨による大量の水が用水路から溢れ、周囲ののり養殖漁家の製造工場や倉庫、自宅が成人の腰あたりまで浸水して大きな被害を受け、有明海の満潮が重なり被害は更に大きくなりました。

一般に報道されるのは人命に係る大きな被災だけです。そのこと自体は勿論重要な事ですが、しかし、規模は小さくとも地域産業に打撃を与える被害は随所に見られます。網田町の豪雨による用水路の氾濫によるのり漁家の被害は、そのひとつの事例です。宇土市の住吉、網田地区は、熊本県の水産業の柱であるのり養殖生産の約20%を占める重要な産地です。見過ごすことは出来ません。

網田町ののり漁家から連絡があったので24日に本誌記者が訪ねたところ、写真に見るように道路整備や工場、倉庫の汚泥除去はある程度進められていましたが、のり製造に欠かせない乾のり自動製造機や付属機械などは泥を被ったままでした。製造機械は重量があり整備のための移動にはクレーンが必要ですが、連絡があった漁家では移動が出来ないままになっていました。

網田漁協に所属する漁家(経営体)は89で、そのうちのり養殖業経営体は56、その中の12経営体が被害を受けています。また、住吉漁協ののり養殖業経営体は33ですが、そのうち11経営体が豪雨によるのり製造工場の機器の浸水被害を受けています。網田漁協のあるのり漁家は「後継者がいないので夫婦だけであと3年位続けようと思っていたが、この被害では、修復費用を考えると今漁期から諦めざるを得ない」と語り、また、被害にあった別ののり漁家では「今年からのり養殖は諦めようかと思っていたが、息子夫婦が何とかやろうと言ってくれたので機械類の修理を行なおうと思う。しかし、数千万円の借金を抱えて息子夫婦に引き継ぐのは切ない」と語っていました。

被害は、乾のり自動製造機、異物検出機、原藻洗浄機、原藻刻み機などの製造工程の機器の他に、作業用車両やのり網にも及んでいます。さらに家屋浸水による生活必要品などの買換えも大きくのしかかってきます。これらの被害復旧の費用は3,000万円を上回りそうです。これまでなんとか生計を維持してきたのり漁家にとってその負担は大きく、生産額も低価格製品の生産で何とか支えて来た現状を考えると、今後のり養殖を続けていくことの困難さが窺い知れます。

網田漁協の被害状況を写真で追ってみましょう(写真の一部は、網田漁協提供)。

灌漑用水路の落石除去作業
用水路を堰き止めた山土・落石、家財の集積
灌漑用水路の落石除去作業
用水路を堰き止めた山土・落石、家財の集積
あふれた山水は車、摘採船を押し流した
道路、工場に流れ込んだ汚泥の除去作業
あふれた山水は車、摘採船を押し流した
道路、工場に流れ込んだ汚泥の除去作業
水没したのり種苗培養槽の整備
のり製造工場前の汚泥除去作業
水没したのり種苗培養槽の整備
のり製造工場前の汚泥除去作業
漁港を覆う流入物
漁港で転覆した漁船
漁港を覆う流入物
漁港で転覆した漁船
泥水を被った乾のり自動製造機①
泥水を被った乾しのり製造付属機器
泥水を被った乾のり自動製造機①
泥水を被った乾しのり製造付属機器
泥水を被った乾のり自動製造機②
住吉地区では潰れた家屋で漁家が犠牲に
泥水を被った乾のり自動製造機②
住吉地区では潰れた家屋で漁家が犠牲に

地震による熊本県内の被害状況は目を覆う状態ですが、さらに部分的とは言え、打ち続く豪雨による被害がのり産地にまで及ぶなど、被害をさらに深刻なものにしています。

熊本県ののり養殖業は生産額約100億円に上る大きな地場の一次産業です。しかも、宇土市網田町、住吉町は良質のりの産地として全国的に知られる有明海に面し、県内景勝地のひとつ御輿来(おこしき)海岸を有し、遠く雲仙を望む景観は沿岸を走る観光列車の乗客にとって癒しの風景にもなっています。

住吉漁協では漁期中に、沿線の風物詩として車窓から見えるのり産地をアピールする「手漉き海苔の天日干し」が行われています。漁期が終わると網田漁協の後継者たちが「おこしき」海岸からの風景を撮影するカメラ愛好家たちに地元産のりの加工品をプレゼントする活動も行っています。

こうした地道な活動を後継者たちに続けてもらうためにも、のり養殖業を継続出来る下支えが必要になっています。地場産業の被害が大きな被害の陰になってしまう現実にも十分目を向ける事も必要でしょう。地震、豪雨被害の被災漁家の多くが、来る漁期も元気に海苔作りが出来るような対策が必要な状態ではないでしょうか。

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