韓国の海苔・中国の海苔 2/2/有賀 祐勝 < 海苔百景 リレーエッセイ < 海苔増殖振興会ホーム

エッセイ&フォトギャラリー

海苔百景

海苔百景のトップに戻る 海苔百景のトップに戻る

リレーエッセイ 2015・夏
韓国の海苔・中国の海苔 2/2/有賀 祐勝
中国の伝統的な乾し海苔

中国では、近年における日本からの技術導入に伴ってスサビノリも江蘇省を中心に養殖され、日本と同様の“板のり”が生産されるようになった。しかし、中国の伝統的なノリ養殖は坛紫菜(壇紫菜、タンツィーツァイ、Tan-zicai、Pyropia haitanensis )を用いて行われている。養殖した生ノリを細断することなしにそのまま天日乾燥し丸型あるいは角型の乾し海苔に仕上げている。坛紫菜は中国固有種であり、浙江省、福建省、および広東省沿岸における主要養殖種である。このノリは福建省の海坛島(海壇島ハイタンタオ; 現在は平潭島ピンタンタオと呼ばれている)で採集された標本を基に種の記載が行われたのでhaitanensis の名がつけられた。日本では「ハイタネンシス」「タンシサイ」「タンシンノリ」などと呼ばれてきたが、標準和名として「ハイタンアマノリ」を提案したい(cf. タネガシマアマノリ)。

写真① 中国産の丸型乾し海苔
写真② 中国産の角型乾し海苔
写真① 中国産の丸型乾し海苔
(直径24~25cm, 25~30g)
写真② 中国産の角型乾し海苔
(およそ24×31cm, 30g)

中国の伝統的な乾し海苔は写真①のように丸型のいわゆる“座布団状”に成形したもので、そのサイズは直径24~25cmのものが一般的で、1枚当りの重さは25~30gであるが、地域によっては写真②のように角型(およそ24×31cm、重さおよそ30g)に仕上げているところもある。今年(2015年)1月に訪れた福建省の厦門(アモイ)近くの大嶝島では、写真③のように角型に成形したものを道路わきで天日乾燥していた。坛紫菜はいわゆる南方系のノリで、高水温の海域でも良く育ち、江蘇省から福建省、さらに南の広東省沿岸にまで養殖場は広がっている。しかし、残念ながら赤味の強いノリで、乾し海苔製品もしばらくすると赤紫色を呈するようになってしまうが、中国の人々はこの赤味がかった色をあまり気にすることなく、丸型あるいは角型の乾し海苔を千切ってスープに入れて食べている。ノリは、かつては沿岸地域だけの食材であったと思われるが、現在では内陸の人々もノリのスープをよく食べているようである。1991年に北京から銀川(寧夏)へ行く特急列車の食堂でノリのスープにお目にかかった時は珍しく思われたが、今年(2015年)1月に福建省内陸部の客家土楼(福建土楼群)を訪れた時や6月末に湖南省北西部の張家界を訪れた時にはレストランで食事の際にノリのスープを味わう機会があった。(写真④)

写真③ ノリの天日干し風景(中国福建省 大嶝島 2015年1月)
写真④ 中国湖南省張家界のレストランで出されたノリのスープ
写真③ ノリの天日干し風景
(中国福建省 大嶝島 2015年1月)
写真④ 中国湖南省張家界のレストランで出された
ノリのスープ
“タイスキ”にも中国産の海苔が

中国産の丸型の乾し海苔は東南アジア諸国にもたくさん輸出されている。よくお目にかかったのは“タイスキ”(“タイ風すきやき”と呼ばれるが、実は“しゃぶしゃぶ風”水炊きまたは寄せ鍋)である。中央に煙突状の突起がついたしゃぶしゃぶ用の鍋または普通の寄せ鍋用の鍋で水または鍋つゆを煮立て、これに魚介類や野菜類や肉団子などの具を入れて熱を通し、金網の匙または箸で取り上げ、予め用意されている何種類かのタレの中から好きなものを選んでつけて食べるのであるが、この具の一つとして中国産のノリがよく出てきた。丸型の乾し海苔をピザを切りわける時のように6等分または8等分したものを鍋の中のだし汁に短時間浸け、取り出してタレをつけて食べるのである。他の魚介類や野菜類の味が多少滲み出しただし汁の味も加わって独特の味がついたノリを楽しむことができる。このような料理でのノリの消費量はかなりのものになるであろう。

日本伝統の寿司(海苔巻きや軍艦巻き)は勿論、海苔のおにぎりも大いに結構であるが、世界にはノリのいろんな食べ方がある。板ノリにこだわらず、いろんな食べ方を試みるのは重要なことであろう。

世界に広がる海苔と日本の課題

一見同じような海苔養殖産業であるが、中国には中国の、韓国には韓国の海苔産業の歴史と伝統に裏づけされた特徴がある。現在、日本のノリ養殖は非常に厳しい状況の中におかれているが、やはり日本らしい伝統的な特徴ある海苔の生産を継続することが重要であり、日本としての特徴ある海苔産業の発展を目指すべきであろう。それは、栄養価が高くて美味しい、品格のある、安心安全の確保された海苔ということであろう。今後の国際的な競争を視野に入れた日本の海苔産業のしっかりした安定的な発展のためには、ノリ生産者の安定した生産基盤の確保が何よりもまず重要である。

PDFファイルはこちら

執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

「韓国の海苔・中国の海苔 2/2/有賀 祐勝 | 海苔百景 リレーエッセイ」ページのトップに戻る