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リレーエッセイ 2015・秋
海藻の栄養 -海苔のビタミンについて- 1/2/天野 秀臣

毎年紅葉の季節になると、実りの秋、食欲の秋という言葉が聞かれるようになります。冬眠する動物は冬の間の栄養を秋のうちにたっぷり蓄えるそうですが、人もこの時期においしいものをたくさん食べて、夏の間に消耗した体力を補うともいわれます。一方、海苔養殖では、秋の水温低下に伴って種付けが始まり、養殖シーズンがスタートします。陸上の作物や果物の収穫から少し遅れて12月には、香り高いおいしい新海苔が食べられるようになります。今回は、海苔のビタミンを取り上げ、私たちの健康とビタミンとの関連について考えてみました。

日本人の平均寿命と健康寿命

現在私たちの身の回りには、食べ物が豊富に出回っています。食生活も、コメやイモなどの炭水化物を食べる量が減り、タンパク質や脂肪が増えて日本型から欧米型となりました。その上、食べ過ぎと運動不足による肥満や生活習慣病が増えてきました。それでも日本人の平均寿命は徐々に伸びて、2013年(平成25年)は女性87才、男性80才、男女合わせると84才で世界第1位(世界保健機関(WHO)2013年データ)になりました。表1に世界191ヵ国・地域で男女合わせた平均寿命が82才以上の国を示しました。多くの欧米先進諸国はランク入りしていないことが注目されます。

表1.日本人の平均寿命と健康寿命の国際比較 (2013年に生まれた人の予測)
国名 平均寿命(才)   健康寿命(才)   平均寿命と
健康寿命の差(年)
男女共 女性 男性   男女共 女性 男性   男女共 女性 男性
日本 84 87 80   75 78 72   9 9 8
シンガポール 83 85 81   76 78 75   7 7 6
スペイン 83 86 80   73 75 71   10 11 9
スイス 83 85 81   72 74 71   10 11 10
オーストラリア 83 85 80   73 74 71   10 11 9
イタリア 83 85 80   73 74 71   10 11 9
サンマリノ 83 84 83   73 73 73   10 11 10
世界保健機関(WHO)による191ヶ国中の上位7ヶ国.  

一方、最近は長寿でも健康でなければ意味がないと考えられるようになりました。表1には、世界で平均寿命の長い国における健康寿命(健康上の問題で日常生活に制限を受けることなく生活できる年数)も示しました。平均寿命世界第1位の日本でも、健康寿命は平均寿命より女性で9年、男性で8年短いので、これら9年間あるいは8年間は日常生活が不自由なことになります。健康寿命は不健康な食生活、運動不足、高血圧、喫煙など様々な要因で短くなります。これらの諸要因のうち、最も大きな影響を与えるものは不健康な食生活です。そこで、今回は微量でも健康に重要な栄養素であるビタミンについて考えてみます。

ビタミンとは

私たちが必要とする栄養素は、タンパク質、脂肪、炭水化物、ミネラル、ビタミン、食物繊維の6種類ですが、日本人の栄養摂取基準(2015年版)からみると、現在はミネラルの亜鉛、鉄、カルシウムと食物繊維が不足しています。ビタミンは目立たないが潜在的に欠乏しやすい栄養素とされています。私たちは学校でビタミンについて学習し、また、マスコミや本で普段からビタミンについて見聞きする機会もあります。ビタミンについての一般的な知識は持っていると思いますが、ここでもう一度簡単に整理してみます。ビタミンは人間の体内で作り出せないか、作っても量が少ないので、食物から取り込まなければなりません。ビタミンが欠乏すると病気になります。ビタミンには、水に溶ける水溶性のものと、あぶらに溶ける脂溶性のものとの2グループがあります。水溶性のものは、尿に出やすく体内にためられないので、毎日摂取しなければなりません。脂溶性のものは、あぶらと共に摂取すると吸収されやすく、体内に留まりやすいので、過剰摂取に気をつける必要があります。

表2.海苔とその他食用海藻のビタミン含有量* (五訂増補日本食品標準成分表)
  脂溶性ビタミン   水溶性ビタミン
海藻 A(β-カロテン当量)
(μg)
D
(μg)
E(α-トコフェロール)
(mg)
  K
(μg)
B1
(mg)
B2
(mg)
ナイアシン
(mg)
B6
(mg)
B12
(μg)
  葉酸
(μg)
パントテン酸
(mg)
C
(mg)
乾し海苔 38,000 0 4.3   2,600 1.21 2.68 11.8 0.61 77.6   1,200 0.93 160
焼き海苔 25,000 0 4.6   390 0.69 2.33 11.7 0.59 57.6   1,900 1.18 210
味付け海苔 29,000 0 3.7   650 0.61 2.31 12.2 0.51 58.1   1,600 1.28 200
マコンブ(素干し) 1,100 0 0.9   90 0.48 0.37 1.4 0.03 0   260 0.21 25
ヒジキ(乾しヒジキ) 3,300 0 1.1   320 0.36 1.1 2.9 0.01 Tr** 84 0.49 0
ヒトエグサ(素干し) 8,500 0 2.5   14 0.3 0.92 2.4 0.03 0.3   280 0.88 38
カットワカメ 1,800 0 0.3   1,600 0.05 0.07 0.3 0 0   18 0.12 0
* 含有量は海藻100g当たり.
** Tr :含まれているが最小記載量に達していない.
 

表2の12種類に水溶性のビオチンを加えた13種類が、人間の必要とするビタミンです。ビタミンが世界で初めて発見されたのは1911年で、発見したのは東京帝国大学農学部(現東京大学農学部)の鈴木梅太郎教授です。鈴木梅太郎は米ぬか中に脚気を予防する成分アベリ酸(翌年オリザニンと改名、後のB1に帰属)を発見し、1914年ノーベル医学・生理学賞候補になりましたが、残念ながら受賞には至りませんでした。1929年にエイクマンとホプキンスがビタミンB1の発見ということでノーベル医学・生理学賞を受賞しました。現在までに様々なビタミンの発見や構造決定などにより25人のノーベル賞受賞者がいます。それ程ビタミンは我々にとって重要なものと言えるのです。

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