食物繊維は多糖類ですが、ヒトの消化酵素では消化されないことから、古くはエネルギーもなく、栄養にはならないとされてきました。しかし日本食品標準成分表2015年版(七訂)での表頭項目では、炭水化物含量は差引法による値(水分、タンパク質、脂質、灰分の合計値を100から差引いた値)が記載され、エネルギー計算に使用されています。一方、食物繊維は水溶性食物繊維、不溶性食物繊維および食物繊維総量の3項目が記載されていますが、いずれの項目もエネルギー計算には使用してきませんでした。しかし最近は、食物繊維はヒトの消化管、特に大腸内のバクテリアによって発酵されることが広く認識されるようになり、日本食品標準成分表2020年版(八訂)ではエネルギー計算に使用されるようになっています。
食物繊維には動物由来のもの、陸上植物由来のもの、微生物由来のものなどさまざまなものがあります。表1に食物繊維を多く含むよく知られた食品を示しました。これらの食品は私たちの日常生活にさまざまな形で密接に関わってきましたが、最近は食物繊維を添加して機能性を謳った加工食品もたくさん目にすることができます。
- 陸上植物関係
- 芋類、豆類、穀物、果物 (製品例:かんぴょう)
- 海藻関係
- 緑藻、褐藻、紅藻( 製品例:寒天)
- 動物関係
- エビ・カニの殻
海藻は多量の食物繊維を含み、その種類も多く、かつ、構造は海藻によって異なることも知られています。表2に海藻食物繊維のよく知られた例を示しました。これらの内で、私たちの日常生活で馴染み深いものに褐藻類のコンブ、ワカメ、モズクの粘質物(いわゆる“ねばねば”)があります。いずれの粘質物も食物繊維で、その成分はアルギン酸とフコイダンが主です。その他、藻体の外観そのものからは粘質物の存在に気がつきにくい食物繊維として、ヒジキのアルギン酸とフコイダン、紅藻アマノリ類のポルフィランと紅藻マクサやオバクサなどの寒天、紅藻フノリのフノランがあります。アルギン酸、フコイダン、フノランなどは昔から食用のみではなく糊料としても私たちの生活で使用されてきたものです。
- 細胞壁骨格を構成する多糖
- 緑藻 セルロース、キシラン、マンナン
- 褐藻 セルロース、ヘミセルロース
- 紅藻 セルロース、ヘミセルロース、キシラン、マンナン
- 細胞間を充填する粘性のある多糖
- 褐藻 アルギン酸、フコイダン
- 紅藻 カラギーナン、ポルフィラン、フノラン(製品例:寒天)
- 細胞内に貯蔵される多糖
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緑藻
陸上植物のデンプンに類似のデンプン
(アミロースとアミロペクチンで構成される) - 褐藻 ラミナラン
- 紅藻 紅藻デンプン
表2には主な海藻食物繊維と藻体における存在場所についても記載しました。海藻の葉体の部位により含まれるものが異なることが分かります。
食物に含まれるタンパク質、脂質、炭水化物などは消化酵素によって分解され、大部分は小腸で吸収され、大腸では主に水分の吸収が起こります。残ったものは大便なります。ヒトの消化酵素で消化されない食物中の食物繊維や消化されにくい性質を持った難消化性デンプンは、小腸を通過して大腸まで移動します(図1)。海藻のアルギン酸、フコイダン等の食物繊維も同様の挙動をします。
食物繊維を説明するために使用される用語に、水に対する溶解度の違いによる水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があります。その生理機能は、水溶性食物繊維には整腸作用、食後血糖値の上昇抑制、血中コレステロール低下作用などが、不溶性食物繊維には保水性を高め、便の「かさ」を増やし、便通促進作用や有害物質の吸着作用が知られています。海藻の食物繊維にも水溶性食物繊維と不溶性食物繊維があり、前者にはアルギン酸ナトリウム、フコイダンなどが、後者にはセルロースがあります。