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リレーエッセイ 2021・秋
対馬の “コンブ” (アオワカメ、鰐浦こんぶ) 2/2 有賀 祐勝
アオワカメ養殖の試み

天然のアオワカメは、上述のように対馬では長さ3mに達するものもあるといわれていますが自生地は局所的で限られているので、食品としての利用拡大のためにはコンブやワカメのように養殖することが考えられます。すでに1960年代初めに長崎大学の右田清治さんによってアオワカメの室内培養と海での養殖が試みられています。ロープを使った垂下式養殖です。右田さんは、室内培養実験による詳細な観察と共に島原半島近辺の沿岸海域数か所で養殖試験を実施し、アオワカメが立派に養殖できることを実証しています(図3)。この養殖試験では最大で長さ4mを超すアオワカメが得られたと報告しています。

図3. 長崎県島原沿岸で試験養殖したアオワカメ.左図のpiはワカメ、peはアオワカメ.(右田 1963 長崎大学水産学部研究報告 No.15.)

図3. 長崎県島原沿岸で試験養殖したアオワカメ.左図のpiはワカメ、
peはアオワカメ.(右田 1963 長崎大学水産学部研究報告 No.15.)

1960年代初め頃には、ワカメの養殖法を参考にしてコンブ(マコンブ)の養殖も瀬戸内海など本州南西部沿岸海域で試みられ、海水温が比較的高い海域での養殖試験が行われて成功しています。しかし、高水温海域では養殖コンブは高水温の夏を越すことができないので、当時は 「水コンブ」(葉状部の薄い1年ものコンブ)と呼ばれて食品としての価値はなかなか認められない情況でした。残念ながらアオワカメの養殖も普及しなかった模様です。

昔から北海道などで漁獲され、流通してきた天然のコンブは、2年生の厚さのあるものが採取され乾燥されて商品化されたものです。暖海域での養殖が成功した1960年代当時は、1年ものの養殖コンブは薄くて、2年もののコンブより味も劣り、つくだ煮にしたり出汁をとったりするのには向かないと判断されました。しかし、人々の生活様式が変化してきた1980頃から1年生の薄くて柔らかいコンブもだんだん見直されるようになりました。2年生の厚いコンブを時間をかけて煮るのではなく、短時間煮るだけで食べられるような1年生の柔らかいコンブが重宝されるようになったのです。すなわち「早煮こんぶ」と呼ばれるような調理時間が短くて済むコンブが一般家庭に浸透し始めたのです。現在では、1年生の柔らかいコンブがワカメなどと同様に広く利用されるようになっています。アオワカメもコンブやワカメと比べて味は劣りませんから、養殖すれば食品としての利用拡大の可能性は残されています。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、
公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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