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産地を追って no.11 気になる新のりの生産課題

2 見えて来たのり産業の課題

新のり養殖を目前しての産地の心配は入札価格の動向ですが、のり需要と価格について概要を述べると、以下の通りになります。

まず初めに、おにぎり、弁当、回転すしなどの業務用需要が全体の約70%を占めているという事実があります。

こうした業界では、上質の食材を出来る限り安く仕入れなければなりません。いろいろな原料を混合して製造出来る食材であれば、一部に低コスト素材を使用することによって価格を下げることも可能ですが、のりの場合は概ね生産時期によってのり質や味が決まるため、生産時期の異なる原藻を混合して低コスト製品を作ることは出来ません。

一方で、厳密にのり質や味が揃ったものを必要量生産することは漁場管理上大変な労力がかかります。業務用需要の製品に対応する品質は、1枚の入札価格が9円~12円程度ですから、中級品の上下幅に見合ったものになります。設備投資が大きいのり養殖漁業では、1枚の製造コストは人件費を除いて6円~8円になります。

ここで、のり入札価格が5円~15円までの価格帯の地区別生産状況を見ると表1の通りになります。

表1.入札価格5~15円の価格帯の地区別生産量

のりの入札価格は、下限価格が「1枚3円」と決められています。これは、低質ののりが低価格で販売されることによって、のりの需要を減退させないようにしようと生産者と流通業者が取り決めたことです。3円以下になったのりは「食用に供さない」のりとして焼却処分されています。

上質なのりの需要を増やし、「価値ある食品」として和食ばかりでなく、世界の食材を目指す天産物として需要を広げることが日本の伝統的なのり産業を永続させる大きな目標です。

しかし、現実はなかなか思うようには進みません。表1.の5~15円の比率は約90%に達しています。さらにその中味を分析したのが表2.です。

表2.5円から15円の価格帯別生産枚数

表2.は表1.をさらに細分化した1円から5円刻みの価格帯別枚数ですが、入札価格は5円~10円の価格帯に集中しています。

この価格帯は、味付のり、おにぎり、弁当用、回転すしなどを中心にした、売れ筋の価格帯です。10円~15円の価格帯には、家庭用味付のりでも、スーパーなどの棚の中段に置かれる商品や、コンビニおにぎりなどの原料に使われるクラスになります。

3円から5円台の価格帯は、8切8枚入り包装で8袋入った特価商品に使われます。また、のり佃煮などの原料にも使われます。

これらの価格帯がのり生産量の90%を占めている現実を見ると、5円~15円の価格帯にどれほどの枚数を生産出来るかということに、のり漁家のその年の生活が掛かっているわけです。

本当においしいのりを生産して、「のりの価値」を多くの消費者に食味して頂くためには、海況(水温、比重、栄養塩の状態など)を見極めた上で、のりがついている網を海上に高く吊り上げて日光と潮風に十分当てアミノ酸を増やすなど1日に3~4回は寒風に吹きさらされて作業を行わなければなりません。

また、のり芽が伸び過ぎて葉体が固くならないように、早めに摘み取る作業もしなければなりません。そのように手間を掛けた作業をこなして生産しても「価値ある価格」にはなりません。そうなれば、平均的な入札価格が8~9円になっても枚数をたくさん採って、少しでも金額が増えるようにしたいと思うのは誰でも同じです。その結果、「のり師」としてのこだわりのあるのり作りをする漁家が少なくなっているのが現実です。

一方、のり商社も、小売店から要求される販売価格に従って納品しなければならない現実の中にあって、少ない利益の中で製品化するためには、原料の仕入れ価格を低く抑えるより方法がないのが実状です。

上質で、おいしいのりの販売力が大きく落ち込んでいますが、消費の実態を良く観察すると、消費者の方々の中にも、残念ながらおいしいのりの「味」をご存じない方がおられる様です。

3年ほど前「道の駅」でのりの店頭販売をしたことがあります。試食をして頂きながら販売したのですが、多くの方々から「こんなおいしいのりは食べたことがない。いつもはどこで販売していますか?」と聞かれました。

生産団体の地域産物の宣伝販売でのことですが、普通の小売店ではお目にかかれないおいしさが注目されたのでしょう。販売価格は2分の1サイズの焼のりを5枚アルミ包材に入れた商品1袋が250円でしたが、販売用として持参した400個余りを3時間程度で売りつくしました。試食販売によるおいしいのりの「価値」が解かって頂けたのではないかと感じました。

かつてスーパーマーケットの勃興期には、どのメーカーも店内で販売してもらうために、まず店頭販売で商品の良さを訴える試食販売を行っていました。しかし、最近はそのような姿をあまり見かけません。店外で試食させることが規制されるようになったためなのか、納入業者が固定化してその必要がなくなったのか、価格だけが購買動機につながるようになったためなのか―。溢れる多様な食品の中から食味による「価値」を認めてもらい需要を伸ばす機会が非常に難しくなってきました。

のり産業界としての需要促進PR活動は勿論行っています。しかし、一般的なPR活動は、街頭での無料配布やロングのり巻き大会、絵巻のり教室などが多く、試食販売などはごく稀です。

現在ののり流通は、生産者が板のり状の製品に作り上げて入札会に出品し、それを入札指定権を持ったのり商社が参加して入札を行っていますが、生産者は生産したのりをすべて入札会に出品しなければならない契約を商社との間で取り取り交わしています。「全量出荷、全量販売」という契約です。また、自己の生産物に対して、販売したい価格を決めて販売することは出来ません。ただし、3円以下に相当する低質品は「食用に供さない」製品として入札されず、その製品が入札会以外でノリの入札権を持たないのり商社に直接販売されないように焼却処分することになっています。

こうした流通システムのため、生産者は消費者に直接販売することを遠慮しています。産地の地域でイベントが行われる際のり産地のPRとしてのりを販売する場合には、産地ののりを入札で買い入れた商社から手数料を払って買い戻して、焼きのりや味付のりに委託加工してもらって販売しています。

しかし、消費の現状を見ていますと、生産者の顔が見える生産物を、生産物の価値を確認して購入する消費者が増えています。生産者の顔が見える販売方法は作る人の生産物に対する熱意が見えるから消費者もその商品を吟味し安心して購入しているのですが、のりは生産者が自分の製品の価値を消費者に吟味してもらい価値を認めてもらえる価格で販売することが出来ない状態です。

一般ののり商品は、完全包装で商品の質も味も知ることが出来ない状態で販売されているものがほとんどです。今や、産地で生産者がのりのおいしさとその価値を十分消費者に認知して頂く販売方法で、上質のりの新たな需要促進を始めなければならない時代に入っているようです。その克服が課題です。

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