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リレーエッセイ 2017・冬
海草アマモの変わった利用法(アマモ葺き屋根の家) 2/2/有賀 祐勝
中国にもアマモ葺き屋根の民家が並ぶ集落がある

2016年、デンマーク・コペンハーゲン郊外にある野外博物館のアマモ葺き古民家(農家)を52年ぶりに訪れ、帰国した後、ネット上で「海草葺き屋根」を検索していたところ、驚いたことに、中国の山東半島にアマモ葺き屋根の家が現在も沢山存在する集落があることが分かりました。2017年3月、来日した中国海洋研究所の知人に、海草葺き屋根の家がある集落を自分の目で見たいと話したところ、「それは私の生まれ故郷だから案内しましょう」という大変ありがたい話になり、6月に山東半島沿岸部の集落の視察が実現しました。

※各写真をクリックすると拡大します

写真3.  古い海草房(中国山東半島)
写真3.  古い海草房(中国山東半島)
写真3. 古い海草房(中国山東半島)
写真 4.  新しい海草房(中国山東半島)
写真 4.  新しい海草房(中国山東半島)
写真 4. 新しい海草房(中国山東半島)

東京から中国山東省の青島まで飛行機で飛び、青島からは高速鉄道(日本の新幹線に似た特急列車)を利用して2時間半で山東半島先端部にある威海市荣成に到着しました。ここからは自動車でアマモ葺き屋根の民家が沢山ある集落を訪れ、家の中まで見せてもらいました。アマモ葺き屋根の家を「海草房」あるいは「海草屋」と呼んでいます。古い屋根の家(写真3)も沢山ありますが、新しく葺いた屋根の家(写真4)も沢山見られます。道路を挟んで近代的な建物と古い海草房が対照的に並んでいる所(写真5)もあり、なかなかの景観を呈しています。観光上の配慮もあって海草房の建築を市が推奨しているようで、海草房の民宿(写真5)もあります。海草房の中は夏は涼しく冬は暖かいとのこと、また海草の屋根は100年以上も長持ちするとのことで、特に不便はないという話を中年の住民から直接聞きました。しかし、現代の若者はやはり近代的な造りの家に住むことに強いあこがれを持ち、都会に出ていく傾向が非常に強く、海草房の維持は容易でないようです。この視察では、海草房の民宿に一泊させてもらいましたが、ごく普通に過ごすことができ快適でした。

写真 5.  海草房の家並と新しい家並
写真 5.  海草房の民宿(中国山東半島).
写真 5. 左: 海草房の家並と新しい家並. 右: 海草房の民宿(中国山東半島).
海草を利用したエコ・ハウス

海草アマモ葺き屋根の家は世界的に見てかなりユニークなものですが、デンマークの場合も中国の場合も相当長い歴史があると考えられます。いずれの場合も、現在こうした屋根を葺いて維持することは原材料確保の点からかなり困難なことと思われます。しかし、デンマークでも中国でも場所によってはまだかなり広大なアマモ場が存在するので、有効利用を考えることは重要であると思われます。そこで、デンマークで報告されている新しい試みを紹介します。

写真6.  デンマークの海草を採用した“エコハウス”(A. Frearrson, 2013)
写真6.  デンマークの海草を採用した“エコハウス”(A. Frearrson, 2013)
写真6.  デンマークの海草を採用した“エコハウス”(A. Frearrson, 2013)
写真6.  デンマークの海草を採用した“エコハウス”(A. Frearrson, 2013)
写真6. デンマークの海草を採用した“エコハウス”(A. Frearrson, 2013)

デンマークで提案されているのは、乾燥したアマモを網袋に入れて長枕状に仕上げたもの(写真6)を木造構造の家の屋根や外壁に取り付ける(外装材としての利用)というものです。乾燥した海草は海岸に打ち上げられたものなら値段は只であり、無毒で、燃えにくく、腐りにくいので長持ちする(150年以上もつ)し、害虫除けにもなり、断熱材としての効果(板壁の間や天井に入れる)もあると宣伝しています。このような企画が成功するためには、大きな規模の海草藻場が健全に維持されている必要があります。

中国の山東半島の場合には、1軒の海草房の屋根には乾燥アマモ約500 kgが必要とのことですが、沿岸部が近年大規模なコンブ養殖に使用されており、このためにアマモ場が相当減少したといわれています。こうした課題や海草房の後継者問題などがありますが、海草房の集落の今後の動向には興味が持たれます。

(付言)海草は海中に生育する種子植物ですから、学術的には海藻とは明確に区別されるべきものです。どちらも「カイソウ」というのが正しい読みですが、海藻と区別するために海草は「ウミクサ」と発音されることがしばしばあります。海草は海外でも一般の人々にはあまり馴染みがないようで、しばしば海草(seagrass)と海藻(seaweed)は混同されることがあるようです。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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