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リレーエッセイ 2021・春
海藻の旬 1/2 天野秀臣
はじめに

私たちの日常生活にはさまざまな楽しみがありますが、なかでも新鮮で味もよい食材を用いて調理されたものを食べることは、大きな楽しみです。食事の楽しみは味、香り、色彩が中心的なものといえます。特に旬といわれるときの食材はこれらの特徴がはっきりするとともに、含まれる成分にも変化が認められることが多いものです。

旬は「魚介・蔬菜・果物などがよくとれて味の最もよい時」(広辞苑)とされます。魚は脂肪が増加して美味しくなりますが、その時期は多くの場合は産卵期の前か産卵後といわれます。魚以外の貝類、エビ・カニの甲殻類、イカ・タコの軟体動物や果物、野菜にも旬があるといわれていますので、旬はよく知られていることといえます。

海藻の旬

海藻でも蔬菜(現在では野菜と同義)と同様に旬の季節があるといわれています。海藻には紅藻、褐藻、緑藻と大きく分けて3つのグループがあります。春3~5月ころになると、店頭には褐色の生ワカメ、鮮やかな緑色の生ヒトエグサ(主産地の三重県では“あおさのり”と称する)が並び、今が旬ですと宣伝されています。いずれも鮮度劣化が早いので、収穫後生で売られる日数は極めて短く、気づかない人もいるかもしれません。一方、ノリは時期的に少し早く年内には店頭に並びますが、生ノリ状態ではほとんど見かけずに、乾海苔や焼海苔に加工されて“今年の新のり”として売り出されます。

このエッセイでは紅藻の例としてノリを、褐藻の例としてワカメを、緑藻の例としてヒトエグサをそれぞれ取り上げ、収穫期の特徴などを紹介します。

ノリ

ノリは和食の重要な食材の一つで、世界的にもよく知られた海藻です。ノリは秋に海水温が23℃以下になると、ノリ網に種付けをします。その後は海上での養殖になりますが、葉体が15~20㎝程度に成長すると基部を残して摘み取られます。洗浄、裁断、乾燥工程を経て、乾海苔になります。年末には“新のり”ができたとしてマスコミのニュースにもなります。食べてみると柔らかく、香りも味もよいことがわかります。12~2月はまさに旬の季節といえます。

ノリ葉体が養殖網から摘み取られたあと、網上に残った基部はまた成長し、10日から2週間たつと次の収穫ができます。これを何回か繰り返すことで、養殖ノリの生産が行われていますが、摘み取り回数が増えると葉体は固くなります。ノリ養殖は日本列島の北から南まで各地で行われているので、最盛期は地域によって少しずつ異なります。したがって旬の時期も地域によって少し異なることがあります。年内11月から12月に養殖される“秋芽網”と称されるものは柔らかく、人気が高いものです。1月になると、“冷凍網”と称される網に張り替えられ、のり生産の最盛期になります。

海苔は植物性食品としては極めてタンパク質が多く、その含量は乾物100g当たり40gを超える場合も多くあります。タンパク質含量の季節変化をみると、表1に示すように養殖初期の12月と1・2月に多く、養殖終期の3月に向かって減少します。対照的に炭水化物含量は、養殖初期に少なく、終期に多くなる傾向があります。海苔の本領は第一に香りで、おにぎりや巻き寿司を食べるときに、海苔の香りが食欲をそそることがよく知られています。香りに負けず劣らず重要なものは味です。海苔の味に関係する呈味アミノ酸は、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸が主で、養殖初期に多く終期に減少しますが、その含量は養殖時期、養殖方法、養殖環境その他の条件によって変化します。一例を挙げると乾海苔100g当たりグルタミン酸1300㎎程度、アスパラギン酸300㎎程度、アラニン1700㎎程度にも達することがあります。この含量は日常食べる八つ切り乾海苔(乾海苔1枚を8枚に切ったもの、約5㎝X 9㎝)1枚でも十分に味を感ずる濃度です。

ノリ(スサビノリ)

ノリ(スサビノリ)

表1 ノリ葉体のタンパク質および
炭水化物含量の季節変化

季節 タンパク質 炭水化物
12月 41.0 22.5
1月 45.3 20.9
2月 45.2 20.5
3月 38.1 26.9

乾物100g当たりのg

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