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リレーエッセイ 2020・夏
海藻サラダ 1/2/天野秀臣
はじめに

我が国にはおおよそ1,500種類の海藻があると言われています。海藻料理の本も数多く出版されていることから分かるように、日本人は世界でも有数の海藻食民族です。しかし、海藻を収穫後に生で食べることは、生ノリやモズクを三杯酢などで食べる以外にはあまり知られていません。生鮮状態の海藻は品質が低下しやすく、取り扱いに注意が必要ですが、乾燥すると運搬性と室温での長期貯蔵が容易になる優れた食材になります。

海藻サラダとの出会い

私が海藻に含まれる各種成分の化学的性質、食べた時の生理機能、栄養上の価値などを研究し始めてからあまり年数の経っていない1975年に、一人の若者が研究室を訪ねてきました。「自分の実家は海藻を扱う個人商店で、これから家の仕事を継ごうと考えている。新しい商品を作ろうと思っているので、紅藻を白くする方法を教えて欲しい。」とのことでした。これが私と海藻サラダとのめぐり逢いの始まりになりました。

実験室で海藻に化学処理をして白くすることは難しいことではありませんが、海藻を食品として使う場合にはどのような方法が適切かを調べるために、2週間の猶予を貰いました。手元にあった乾燥した紅藻トサカノリを水で戻し、その後日光に晒すと薄い黄色になりました。水に浸しては日光に晒す作業を数回繰り返しましたが、うすい黄色が残り白くはなりませんでした。最後に食品添加物の過酸化水素水に浸したところ、うすい黄色が漂白されてきれいな白色になりました。2016年に「過酸化水素は、釜揚げしらす、しらす干し及びちりめんにあってはその1kgにつき0.005g以上残存しないように使用しなければならない。その他の食品にあっては、最終食品の完成前に過酸化水素を分解し、又は除去しなければならない。」と使用基準の法改正がありましたが、1975年当時も現在も海藻では過酸化水素を使用していません。

2週間後に会った相談者に、紅藻の白色化処理は完成しなかったことを伝えて詫び、海藻の前処理と日光に晒す条件が重要と思うがよく分からないと話しました。当時の文献調査は、現在のようにデータベースをインターネットで使用できる環境ではなく、図書館に閉じこもって探すしかありませんでしたので、それ以上の調査は断念したものでした。

彼が今後の家業についていろいろと話していた時、私の書棚の専門書の中に高橋武雄著「海藻工業」(1944年発行)という古い本を見つけ、海藻サラダに関する記述はないもののぜひ譲って欲しいと頼まれました。その熱心さに感心し、また、紅藻の白色化がうまくいかなかった申し訳なさもあり、本は私物でしたので差し上げました。この本は直ぐに古書店で購入できると思い、上京するたびに神田や本郷界隈の古書店を訪ね、入荷したら連絡をして欲しいと依頼しました。しかし一向に連絡はなく、30数年が過ぎて半ば諦めた頃に神奈川県茅ケ崎市の古書店で売りに出たとの連絡が入りました。すぐ買い取り、今では私の思い出の一冊として自宅の書棚に並んでいます。

海藻サラダで使用される海藻と色彩

海藻サラダが我が国で最初に発売されたのは、上記の相談から8年後の1983年と言われます。これには1976年に市販されたカットワカメの功績が大きく、カットワカメに他の海藻がミックスされて海藻サラダの発展につながったと考えられています。 

現在では私たちの食生活にすっかり馴染みになった海藻サラダですが、私はその食感、彩りのほかに、ノンオイル青じそドレッシング、ごまだれ、三杯酢などで好みの味付ができることが気に入っています。

図1 海藻サラダ 図2 カットワカメ

市販されている海藻サラダ(図1)には、メーカーにより5~10種類ほどの海藻が使われていますが、その海藻は国産のものと外国産のものがあります。多くの海藻サラダ製品で使用されているものは、褐藻類のワカメ(湯通し塩蔵ワカメを原料としたカットワカメ(図2)、茎ワカメ(図3)、めかぶ)や刻みコンブ(図4)が、紅藻類ではトサカノリ(図5)、マフノリ(図6)、ムカデノリ、ツノマタ類、シキンノリ、スギノリなどが、緑藻ではミル類があります。海藻サラダで量的に主な原料はワカメで、海藻サラダ乾燥重量の40%程度も含まれています。本来褐色のワカメは、加工によって葉体中の赤~赤橙色のカロテノイドであるフコキサンチンが退色し、残存するクロロフィルで緑色に見えます(図2)。

図3 茎ワカメ、図4 刻みコンブ、図5 トサカノリ、 図6 マフノリ

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