産地情報 | 産地リポート

産地を追って no.10 のり生産の課題

2 どうなる今後の燃料費

平成24年度漁期の総生産枚数は約82億枚ですが、種付けが始まって12月一杯まではのり芽も全国的に順調に育ち、生産量が増えるだろうと見られていました。しかし、1月に入ると円安に伴う燃油高でのりの製造に使うA重油(軽油)が値上がりして、のり質が落ちて入札価格が安くなった産地では、生産原価以下になり生産を打ち切ったところもありました。

この結果、全国生産枚数は当初の予想を下回る82億枚程度に落ち着きました。燃料代が嵩(かさ)み入札価格が下がった結果生産を打ち切らざるを得なくなったということは、過去にないケースだと思います。

過去の例では、昭和48年ののり養殖期にA重油の値上がりが始まり、当時の漁期初めの11月に200リットル入りのドラムカン1本約6,000円であったものが、連日値上がりして12月中旬ごろには、ドラム缶1本15,000~18,000円と高騰しました。当時の製造燃費は、200リットルで約1万2,000枚程度と見られ、のり1枚の製造原価は1円20銭相当高くつく計算でした。

しかし、当時は大型海苔製造機械の普及も少なく、燃料費は高くなりましたが、上質品が高く売れていた時代でした。しかも、その年は秋芽の出来が良く、昭和48年12月10日時点の全国生産枚数は前年より2倍近く多い13億3,300万枚(前年同期約6億5,500万枚)でした。当時の全国共販目標は約75億枚です。また、需要が伸びている時期で当時の全国平均価格は、のり1枚当り15円47銭(前年同期は1枚当り18円62銭)で上質品の需要が多く、価格も現在の1枚当り8円台の2倍近い価格でした。したがって、燃料高騰をカバーするためには、上質品の生産に重点を置き、質が落ちて価格が安くなり、コストが合わなくなった場合、生産を打ち切ることも出来ました。

のり漁家5~6経営体による協同事業の製造設備
写真1.のり漁家5~6経営体による協同事業の製造設備(佐賀県にて)

ところが現代は一般家庭用、ギフト用の上質のりの売れ行きが思わしくなく、コンビニで販売されているおにぎり用、回転すしを始め一般の弁当用など業務用需要が販売先の約60%を占めていますので、これらの原料としてののりの入札価格は安く、生産枚数を増やさなければ養殖資材、製造資機材の支払いが賄(まかな)えません。このため、海苔製造機械の性能が良くなり大型化したこともあって、のり養殖業者4~5人が協同で製造機械を導入する協業方式で生産コストの引き下げを行なっているところが増えています。

こうした製造機械では燃油200リットルで3万枚から3万5千枚相当が製造されます。しかし、のり生産の最盛期には、製造機械を24時間フル稼働で18万枚相当製造します。200リットルのドラム缶を5~6本使用することにもなります。この漁期も燃料費は急激に値上がりし、200リットル19,000円相当になりました。18万枚の海苔を製造するのに95,000円の燃料代が必要です。のり1枚製造するためには約2円の燃料代が必要です。

その他に海から摘み取って来たのり原藻の洗浄機(この機械はのりの原藻を攪拌(かくはん)して洗いながら、海に浮遊しているゴミも同時に取り除くようになっています)、さらに抄(す)き上がった海苔が1枚づつ流れ出てくる途中に、抄き上がったのりの中に巻き込んでいる異物がないかどうか、のりが破れていないか、穴が開いていないか検査する商品としての安全と安心を確認する異物検査機などの電力費用も増えています。

これらの製造経費を支払うためにも、全体の生産コストギリギリの段階まで生産を続けなければならない現状です。家庭用需要の減退、業務用需要の増大による低価格品の枚数増で、全体の売上金を少しでも増やし、諸経費の支払いに当てるより他に方法がないということです。

目まぐるしく動いている世界の産油国の現状を見ながら、今後の燃料状況がどのように推移するのか、のり養殖業界にとっては、大きな関心事であります。

3 のり需要に経済効果は及ぶか

「のり生産の課題 | 産地を追って | 産地リポート」ページのトップに戻る