海中漫歩 第二話 「海藻の花」 3/3/横浜 康継 < 海苔百景 リレーエッセイ < 海苔増殖振興会ホーム

エッセイ&フォトギャラリー

海苔百景

海苔百景のトップに戻る 海苔百景のトップに戻る

リレーエッセイ 2011・冬
海中漫歩 第二話 「海藻の花」 3/3/横浜 康継
見直される「なのりその花」
写真5. アカモク(褐藻・ホンダワラの仲間)の海藻おしば
写真5. アカモク(褐藻・ホンダワラの仲間)の海藻おしば

アカモクは本州の日本海側では食用とされてきたが、食べ頃は生殖器床が形成される春からで、とくに雌性生殖器床のついた枝先を熱湯に浸してから包丁で細かくなるまでたたくと、ワカメのめかぶと同じように、ねばねばの状態になる。この粘りは雌性生殖器床から卵と一緒に放出される無色透明の粘液によるのだが、ワカメのめかぶの粘りのもとは、遊走子が生まれる遊走子嚢というミクロな袋を守る帽子状のやや硬い粘液の塊である。ワカメのめかぶでもアカモクでも、私たちの食欲をそそる独特の粘りは、大切な生殖細胞を保護する役目の粘液に由来するという点では同じである。

太平洋側では、昔からワカメのめかぶは食べられてきたが、アカモクが食用に加工されるようになったのはごく最近のことである。宮城県でも、松島湾の水質浄化のためにアカモクの養殖やアカモク藻場造成などが計画されているが、収穫されたアカモクを食品に加工することも試みられている。

「なのりその花」は、恋の歌にも登場するほどに古代の人々には愛されていたのに、現代においてその存在を知るのは、万葉学者か限られた植物学者ぐらいになってしまった。水温む頃に磯の片隅でひっそりと咲く「なのりその花」を愛でていた古代の人々は、現代に生きる私たちとは比べものにならないほど自然に対する観察眼や感受性が鋭かったと言える。しかし私たちがすっかり忘れてしまっていた「なのりその花」も、すぐれた食材として注目を浴び始めている。アカモクの生殖器床の粘液の主成分は、ワカメのめかぶと同じく、整腸作用やガン予防効果があるとされるフコイダンという多糖類である。

 

昔から本州日本海沿岸の地方でのみ食されていたアカモクが、最近になって太平洋沿岸地方でも市販されるようになったので、「ぎばさ」あるいは「じんばそう」と呼ばれてきたこの健康食品を賞味してみてください。そして万葉時代の若者たちのひそやかな恋に思いを馳せ、愛する人と水温む磯辺で「なのりその花」を鑑賞されては如何でしょうか。(第二話 終)

PDFファイルはこちら

執筆者

横浜 康継(よこはま・やすつぐ)

元南三陸町自然環境活用センター所長、元筑波大学教授(元筑波大学下田臨海実験センター長)、理学博士、第4回海洋立国推進功労者表彰受賞(2011年)

「海中漫歩 第二話 「海藻の花」 3/3/横浜 康継 | 海苔百景 リレーエッセイ」ページのトップに戻る