産地情報 | 産地リポート
販売価格の課題について
10枚×10束(100枚)=3,600枚入りの生産漁家から出荷されたのり
格付の等級によってのり商社の値付が決まります。品質を見つめる検査員の眼つきも真剣です。ここで決められた格付と等級がのり漁家の収入に大きな影響を与えます。本等級(艶が良く、おいしそうな質)、くもり等級(艶がやや鈍い製品)、丸等級(小さな穴が見える製品)など約14の規格と9の等級があります(従って最大で約130の種類に分けられることになります)。産地によって格付の規格呼称は多少異なり、約130種のすべてに区分されることはありませんが、概ね10の規格で8等級程度に区分されたのりが入札会場に出品されています。大きな生産地では1つの等級で300箱(1箱は3,600枚入り)から1,000箱以上になることもあります。
数量が大きくまとまる等級の製品は、質的には中級品の場合が多く、主としておにぎりや弁当などの業務用製品として買われます。
箱から取り出して並べたのりを一束(100枚)ごとに品定めをして、格付けと等級検査を行う検査員
おにぎり、弁当、回転すしなどの業務用の需要が増えたことはのり産業界にとって有難いことですが、のりの価格帯は7~13円程度で、質的には中級品になります。しかも業務用の需要が高まりのり共販総数量の約60%を上回るようになると、のりの産地価格全体に与える影響は極めて大きくなります。その大きな影響のひとつが生産体制の業務用向けの生産への集中化であり、その結果のりの平均価格を引き下げられてしまった現状があります。
業務用需要の増大はまた、寒中の海で小まめに網の上げ下げを行い、労力をかけて味のあるのり作りをして来た上質品の作り手である「のり師」を減少させ、その結果上質でかつ高価格で取り引きされる「価値」のある製品が少なくなっています。
一般加工食品の場合は、いくつかの原料を混合して作られことが多く、原料食材の価格調整や大量生産することである程度生産コストを引き下げることが可能ですが、のりはあくまでも天産物で、養殖時期の自然状況や海況によって生産量自体もコントロールすることが出来ません。また食品製造の安全、安心を考えると、衛生的な基準をより高めるための機械設備の強化が必要ですが、それを実施するには、全体のコストを押えるため人件費の削減が必要になります。
かつては、漁期中(約6ヶ月間)2~3人の人をそれも賄い付きで雇い入れ、雇用人件費だけでも1,000万円以上必要でした。現在は、1機5,000万円以上の高性能のり製造機を始め、摘採したのり原藻の洗い機、異物除去機、乾燥して流れて来る板状のり(19cm×21cm)のすべてをさらに検査して異物が入っていた場合自動的に撥(は)ね退ける異物検出器、10枚を重ねて二つ折りにし束ね、さらに10束をまとめて帯紙で括(くく)る結束機などそれぞれ150~300万円もする機械を導入していますが、総額で1億円以上の設備投資費になります。これらの償却費を少しでも捻出するために家内労働、協業化によって人件費を削減しているのが現状です。
限られた海域での自然食品の養殖漁業では増産にも限度があり、本格的なコストダウンは不可能に近いことです。
したがって、生産されたのりの価格が少しでも値上がりしなければ、産地の疲弊感は強くなるばかりで、後継者を育てる環境にはなりにくいのが現状です。のり商社の入札価格を見ても「おいしい海苔を作れ」とは言いながらも、業務用中心の買い方で、その価格も大型小売店の仕入れ価格に合わせた価格の仕入になっています。「質より値段」が優先している現状を見れば、生産意欲もダウンせざるを得ないでしょう。