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台風一過、有明海も新のり準備本格化
台風が走りすぎた9月18日、九州北部豪雨による被害が大きかった福岡県有明海地区の矢部川下流の柳川市中島、大和の両地区沿岸を歩きました。午前9時前の大潮満潮時で、海水が河川の船着場まで浸かる程溢れていました。
しかし、漁港を見ると、傾き折れ曲がっていた作業用クレーンの鉄柱枠は何とか使える程度になっていました。また、流失した漁船係留支柱も真新しいものに変わっていました。乗船用の桟橋も、以前よりは少なく感じましたが、浮桟橋などで当面漁船の発着には、お互いに譲り合えば何とか使用出来る程度になっていました。
この桟橋で漁船にのり漁場に張込むのり網の支え棒(グラスファイバー製の支柱)を積み込んでいた、知り合いの漁家に会いました。9月17日の16号台風の影響で、11日に建てた支柱に影響がないか見るために早めに海に出るということでした。
潮の引き始めから海に出て、割り当てられた漁場に支柱を建て込む作業が行われますが、堤防を下って沖を見ると、漁船の姿を見ることが出来き、盛んに作業が行われている様子が見えました。午後に会った漁家に聞くと「大したことはないが、風で波が高かったため、建て込みのゆるかった支柱が少し斜めに傾いているのを見かけた」ということで、建てこんだ支柱が流されるような状態ではなかったようです。
九州有明海地区の支柱建て込みは9月1日の漁場行使解禁を待って一部で既に始まっていましたが、福岡有明地区は10日以降の小潮時期に各漁場とも本格的な支柱建て込みが始まりました。
有明海の支柱漁場には、のり網10枚張り、8枚張りの2通りの建て込みの仕方があります。8枚張りは1区画(1コマと呼び、コマは漢字で書くと小間になります)55本、10枚張りの場合は1コマ66本の支柱を建てます。福岡有明では秋芽は一部コマが8枚張り、佐賀有明はすべて8枚張りになります。また、熊本は、漁場全体の約60%が浮き流し漁場といって、支柱を建てずにのり網を海底の重石に固定して張りますので、支柱を建てない部分があります。それらを計算すると各県の支柱建て込み本数は推計で次の通りになります。
◇福岡有明:約1,452,000本。◇佐賀有明:約2,073,307本。◇熊本:713,790本。◇合計・4,239,097本。つまり、のり養殖時期の有明海の漁場には、424万本に上る支柱が建つことになります。
約2週間掛けて建て込みが行われますが、毎年のことですが残暑厳しい時期で、日照りに熱中症や脱水症状にならないよう気を付けながら行う作業です。
この支柱にのり網を張り込むのは10月中旬過ぎです。のり網の下にはビニール袋に胞子(のり種)を抱えたカキ殻を入れ、のり網に吊るして支柱にくくりつけながら採苗を行います。この方法を野外採苗といいます。この採苗は1~3日程度で終わり、ビニール袋をのり網から外します。採苗後、10月の下旬頃まで、のり芽が4~5センチになるまでが育苗(のりの幼芽を育てる)時期です。育苗は作業効率の関係でのり網を何枚も重ねて行い、漁場全体に本格的にのり網を広げる(網を展開すると言います)前なのですが、この時期に佐賀空港に降り立つ飛行機の窓から、低空飛行の数分間有明海を見ると赤、黄、緑、青、白と色とりどりののり網が広げられ、なんとも言えないデザインではありますが美しいかすり模様を見ることが出来ます。
豪雨災害にあった九州有明海も新のり準備に入りました。昨年の11月の新のり生産開始時の生産状態は良くありませんでした。今年は慎重に野外採苗に取り掛かる計画です。9月19日に九州有明海の熊本、福岡、佐賀の3県漁連(県漁協)の合同会議が開かれましたが、この会議では10月15日以降の適期に採苗開始という大まかな話しに終わりましたので、再度、海況の動向を見て協議することになっています。各県とも水温の状態とこの先の気象情報を加味しながら決める事になりそうです。
その他の産地、東京湾、伊勢湾、三河湾、瀬戸内海地区の陸上採苗は、ほぼ終わっています。いよいよ、全国とも新のり養殖の準備の渦中に入ります。