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リレーエッセイ 2018・夏
世界最大の海藻ジャイアントケルプ 1/2/有賀 祐勝
長さが50~60mにもなる

ジャイアントケルプは、長さ50~60mに達するので世界で最大の海藻として知られており、日本語ではオオウキモと呼ばれます。学名は Macrocystis pyrifera(マクロシスティス ピリフェラ)です。褐藻のコンブ目コンブ科に属す多年生(胞子体の寿命は4~8年)の海藻です。北アメリカの太平洋沿岸(アラスカ~カリフォルニア半島)や、南アメリカ・南アフリカ・オーストラリア・ニュージーランドなどの南大洋沿岸、フォークランド諸島沿岸、オークランド諸島沿岸に自生しています。これらの海域で海水温度が21℃以下のところに年中見られますが、これより海水温が高いところでは生活環を完結できないので自生していません。

ジャイアントケルプの属名は上記のようにマクロシスティスです。19世紀にはマクロシスティス属17種が記載されましたが、その後の研究により3種(M. angustifoliaM. integrifoliaM. pyrifera)に整理され、1986年には第4の種(M. laevis)が加えられて全体で4種に分類されていました。しかし、2000年代に入ってK.W. Demesら(2009)の形態学的研究とE.C. Macaya & G.C. Zuccarello (2010)の分子レベル(DNA)での研究などの結果に基づいて種レベルでの違いは認められないとされ、現在では M. pyrifera 1種とすることが藻類学の分野では国際的に認められています。

肉眼的に見ることのできるジャイアントケルプは胞子体で、明確に区別できる付着器(仮根)、茎状部(茎)、葉状部(葉)から構成されており、付着器で海底の岩石等にしっかりと固着し、葉をつけた茎状部が海面に向かって鉛直に伸びています。葉状部の基部には気泡がついているのでその浮力で鉛直に立つことができます。成長して水面に達した後は茎状部と葉状部が水面をはうように水平に広がります。水深40~50m の沿岸域であれば、このようにして成長した個体が大きな個体群を形成し、いわゆる海中林と呼ばれるような景観を呈することになります。大きな個体は長さ50~60m に達しますから、世界で最大の海藻と言われるわけです。

※各写真をクリックすると拡大します

写真1 ジャイアントケルプの森(海中林)
写真2 ジャイアントケルプの付着器(仮根)
写真1 ジャイアントケルプの森(海中林)
(NOAA National Ocean Service)
写真2 ジャイアントケルプの付着器(仮根)
(National Geographic)
写真3 ジャイアントケルプの先端部。葉の基部に気泡がある。
写真3 ジャイアントケルプの先端部。葉の基部に気泡がある。

ジャイアントケルプの生活環は日本に自生するマコンブやワカメと同じような型で、肉眼的な胞子体に遊走子がつくられます。この遊走子が着底、発芽して顕微鏡的な分枝した糸状の配偶体になります。配偶体には雌雄の区別があり、雌の配偶体には雌の配偶子が雄の配偶体には雄の配偶子がつくられ、両者は接合(受精)して接合子ができます。接合子は海底の岩石などに付着し発芽して胞子体になります。

ジャイアントケルプの海中林は、アザラシやラッコの住み家になっていることは比較的よく知られていますが、多くの魚介類の住み家であるとともに幼稚仔の保育場・隠れ家ともなっています。また、ウニ・アワビその他の巻貝類などの餌になり、直接着生している小動物の餌にもなり、これらの動物たちに生活の場を提供しています。このようにジャイアントケルプの海中林は特徴的な生態系を形成しています。

成長速度も大きいと言われますが

世界一大きな海藻と言われるとともに、ジャイアントケルプは著しく大きな成長速度を持つことがもう一つの特徴で、1日に50~60cmも成長するとよく言われます。しかし、ここで注意しなければならないことは、全長1mほどの個体が1日に50~60cm伸長するのと、全長50mほどの個体が1日に50~60cm伸長するのとでは成長率は異なるということです。例えば、長さ5mのものが1日に60cm成長した場合の成長率は1日当たり12.0%ですが、長さ45mのものが1日に60cm成長した場合の成長率は1日当たり1.33%です。また、実際の調査で長さ2mのジャイアントケルプが120日後に20m弱になったという記録があります。この場合は、120日の間に18m伸びたわけですから、平均すると1日当たり15cm伸びたことになり、平均成長率は1日当たりおよそ1.5%となります。また、植物の実際の成長は指数関数的であることが多いので、このような単純な計算で比較することは不合理と言えるでしょう。

海藻によって茎状部の基部近くに成長点があるものと、葉状部先端付近または茎状部の先端付近に成長点があるものとでは成長の様式が異なりますから、単純な計算結果だけでの比較には問題があります。ジャイアントケルプは主に先端部が成長するようです。「1日当たり50~60cm成長」という数字だけが独り歩きしてしまわないよう十分に注意して成長速度の比較をすることが大切です。

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