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リレーエッセイ 2021・秋
海藻食物繊維の発酵への期待 2/2 天野秀臣
食物繊維の発酵

食物として取り込まれた炭水化物は小腸で消化・吸収されますが、食物繊維は大腸まで到達し、腸内共生細菌によって発酵されます。発酵は、「一般に酵母類・細菌類などの微生物が、有機化合物を分解してアルコール類・有機酸類・炭酸ガスなどを生ずる過程」(広辞苑)と言われます。腸内には1,000種類以上もの細菌が存在し、菌数は100兆個以上とされるので、私たちがとりいれた食物に含まれる食物繊維も胃から小腸をとおり大腸へと移動し、腸内細菌によって活発な発酵を受けます。この時に働く主な腸内細菌はBacteroidales目など一般的な共生細菌と言われています。その結果、食物繊維からは、短鎖脂肪酸、炭酸ガス、水素ガス、メタンガスなどが生成されます。短鎖脂肪酸は炭素数が2~5個の小さな化合物で、炭素数が2個のものが酢酸、3個のものがプロピオン酸、4個のものが酪酸、5個のものが吉草酸です。その構造式を図2に示しました。これら短鎖脂肪酸はエネルギー源として利用され、食物繊維は約2kcal/gのエネルギーをもっていることも明らかになりました。

CH3COOH
酢酸
CH3CH2COOH
プロピオン酸
CH3CH2CH2COOH
酪酸
CH3CH2CH2CH2COOH
吉草酸
図2 食物繊維の発酵で生成される短鎖脂肪酸

発酵により生成された短鎖脂肪酸は以下に示すような様々な機能、即ち① 脂肪組織におけるインスリン感受性の低下、脂肪蓄積の減少、肥満の抑制、② 制御性T細胞の分化誘導をすることで、免疫恒常性の維持と炎症の抑制、ガン抑制、③ ミネラル吸収促進作用、④ 腸の蠕動運動促進などをもつことが分かっています。
しかし、海藻の摂取と腸内細菌との関連についての研究はこれまでほとんど行われていません。日常よく食べている海藻と海藻多糖類(食物繊維)の健康への影響を in vitro(試験管内、体外)およびラットを用いた実験で腸内環境の面から検討がされました。その結果、ヒト糞便フローラおよび腸内の代表的な菌株による海藻多糖類の発酵は、褐藻類中の多糖類であるラミナランおよびアルギン酸ナトリウムで明らかであり、酢酸や乳酸など数種類の短鎖脂肪酸が生成されました。とくにラミナランは腸内菌Bacteroides ovatusによって、より強く発酵されました。
それでも海藻の食物繊維の発酵に関する基礎研究が少なく、今後の研究課題として残っています。

発酵技術を用いた海藻食品の開発

海藻の食物繊維の発酵に関するデータは少なく、短鎖脂肪酸などの生成物に関する研究は今後の課題として残っています。
海藻は乾燥すると貯蔵性、運搬性に優れた食品となります。このために古くから海藻の乾燥品が普及してきました。現代社会の食生活の多様化もあり、消費者の海藻食品に対する要望も様々なものがあります。その一例として、海藻を発酵させた食品素材の研究例を紹介します。
スサビノリを乾燥させた後、粉末にし、酵素で発酵させて海藻調味液が開発されています。これを原料とした様々な商品開発が試みられています。この調味液は小麦を使用していないので、アレルゲンフリーの食品素材として期待されます。

終わりに

ヒトの健康に関わる食品の研究は栄養素の研究から始まり、これまでに多くの成果を上げてきました。また、分析方法の進歩により新たな食品機能も見つかっています。過去には栄養にもならないと考えられていた食物繊維は、その重要性が認識されるようになり、第6の栄養素と考えられることもあります。今回は食物繊維の発酵で生成される短鎖脂肪酸をとりあげ、その機能の一端を紹介しましたが、海藻におけるこの分野の研究はまだ少なく、これから発展が望まれます。   

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執筆者

天野 秀臣(あまの・ひでおみ)

一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士

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