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日本産アマノリ属藻類紹介

海苔の豆図鑑

no.4

アマノリ類の学名

海苔養殖の主な対象種として最も良く知られているのは紅藻のスサビノリとアサクサノリです。2011年以前は、スサビノリの学名はポルフィラ・イェゾエンシス(Porphyra yezoensis)、アサクサノリの学名はポルフィラ・テネラ(Porphyra tenera)として親しまれてきましたが、分子レベル(DNAレベル)での研究の目覚ましい進展に伴い、世界に分布するノリの仲間(これまで学術的には紅藻アマノリ属 Porphyra として一つにまとめられていた)の分類学的・系統学的研究が著しく進展しました。

その結果、まず2011年には、それまでポルフィラ属とされてきたノリの分類が徹底的に見直され、ポルフィラ属(アマノリ属)は新たに8属に分けられることになりました。これに伴い日本産アマノリのほとんどがポルフィラからピロピア(Pyropia)という属名に変更されました。ノリの日本語の名前(和名)は変わりませんが、学名はスサビノリがピロピア・イェゾエンシス、アサクサノリがピロピア・テネラとなりました。

このような動向の中で新たにミウラエア(Miuraea)という属がアマノリ類の研究に多大の貢献をされた故三浦昭雄先生(東京水産大学名誉教授)に敬意を表して設定され、2010年にアカネグモノリ(Porphyra migitae)として記載(命名)されたノリの学名はミウラエア・ミギタエ(Miuraea migitae)となり、Miuraea は日本語ではアカネグモノリ属と呼ばれることになりました。しかし、Miuraea は菌類ですでに1948年に属名として使われていることがその後判明したため、2018年にアカネグモノリの属名は Neomiuraea に変更され、Neomiuraea はアカネグモノリ属と呼ばれることになりました。

ところが、アマノリ属(Pyropia)のノリを中心とした分子レベルの研究を更に進めて分類学的・系統学的成果をまとめた論文が2020年に発表され、アマノリ類は14属に分類されることになり、新たにCalidiaNeoporphyraNeopyropiaNeothemisPorphyrellaUedaeaが加わりました。その結果、スサビノリの学名は ネオピロピア・イェゾエンシス(Neopyropia yezoensis)、アサクサノリの学名はネオピロピア・テネラ(Neopyropia tenera)となりました。新しく設立された属Uedaeaはアマノリ類の分類学的研究と海苔養殖の分野で多大の貢献をされた故殖田三郎先生(東京水産大学名誉教授)の功績をたたえたもので、オオノノリ(Uedaea onoi)が属します。また、その後、Calidiaはすでに1876年に地衣類の属名として使われていることが明らかになり、Phycocalidiaと改めることになりました。(ただし、日本産の6種はまだ分子系統解析が済んでいないため、旧分類のポルフィラ属のままになっています。)

その後、2021には日本産の新種としてセンジュアマノリが記載されました。また、同年、これまで中国の固有種とされていたハイタンアマノリ(中国名: 壇紫菜)が伊豆諸島(式根島と八丈島)に自生していることが発見されました。この結果、日本産アマノリ類は31種となりました。

アマノリ類14属の日本語の名前(和名)と日本産ノリ31種の分類上の位置づけは次の通りです。(アマノリ類は分類学上、植物界 Plantae - 紅藻植物門 Rhodophyta - 真正紅藻亜門 Eurhodophytina - ウシケノリ綱 Bangiophyceae - ウシケノリ目 Bangiales - ウシケノリ科 Bangiaceae に属します。)

植物界Plantae
紅藻植物門Rhodophyta
真正紅藻亜門Eurhodophytina
ウシケノリ綱Bangiophyceae
ウシケノリ目Bangiales
ウシケノリ科Bangiaceae

  • (1) Boreophyllum マクレアマノリ属
  • Boreophyllum pseudocrassum マクレアマノリ
  • (2) Clymene クリメネ属(なし)
  • (3) Fuscifolium フシフォリウム属(なし)
  • (4) Lysithea リシテア属(なし)
  • (5) Neomiuraea アカネグモノリ属
  • Neomiuraea migitae アカネグモノリ
  • (6) Neoporphyra オニアマノリ属
  • Neoporphyra dentata オニアマノリ
  • Neoporphyra haitanensis ハイタンアマノリ
  • Neoporphyra kitoi センジュアマノリ
  • Neoporphyra seriata イチマツノリ
  • (7) Neopyropia アマノリ属
  • Neopyropia ishigecola ベンテンアマノリ
  • Neopyropia katadae ソメワケアマノリ
  • Neopyropia kinositae ウタスツノリ
  • Neopyropia kuniedae マルバアサクサノリ
  • Neopyropia lacerata ヤブレアマノリ
  • Neopyropia moriensis カヤベノリ
  • Neopyropia tenera アサクサノリ
  • Neopyropia tenuipedalis カイガラアマノリ
  • Neopyropia yezoensis スサビノリ
  • (8) Neothemis ネオテミス属(なし)
  • (9) Phycocalidia ミナミアマノリ属
  • Phycocalidia acanthophora ツクシアマノリ
  • Phycocalidia suborbiculata マルバアマノリ
  • Phycocalidia tanegashimensis タネガシマアマノリ
  • (10) Porphyra ポルフィラ属(なし)
  • (11) Porphyrella ポルフィレラ属(なし)
  • (12) Pyropia ウップルイノリ属
  • Pyropia crassa アツバアマノリ
  • Pyropia kurogii チシマクロノリ
  • Pyropia pseudolinearis ウップルイノリ
  • (13) Uedaea オオノノリ属
  • Uedaea onoi オオノノリ
  • (14) Wildemania ベニタサ属
  • Wildemania amplissima ベニタサ
  • Wildemania occidentalis キイロタサ
  • Wildemania variegata フイリタサ
  • (参考)オオバアサクサノリ Neopyropia tenera var. tamatsuensis
  • ナラワスサビノリ Neopyropia yezoensis f. narawaensis

日本産のノリでDNA分析がまだ済んでいないため所属が確定していないのは、次の6種であり、これらはDNA分析が済むまでは2011年までと同様のポルフィラ属(Porphyra)として扱われることになります。

  • ムロネアマノリ(Porphyra akasakae
  • コスジノリ(Porphyra angusta
  • エリモアマノリ(Porphyra irregularis
  • アナアマノリ(Porphyra ochotensis
  • クロノリ(Porphyra okamurae
  • スナゴアマノリ(Porphyra punctata

なお、中国で養殖されているハイタンアマノリ(壇紫菜)の学名は2011年にはPyropia haitanensisとされましたが、2020年に Neoporphyra haitanensisとなりました。

このような属名の変更は、アオノリ属(Enteromorpha)がアオサ属(Ulva)に統合された(2003)こと、これまでLaminariaとされてきた日本産のコンブは1種(ゴヘイコンブLaminaria yezoensis)を除いてすべて新しいコンブ属(Saccharina)に移された(2007)ことに続く、日本産の主要な食用海藻に関わる分類学上の重要な変更です。

(有賀祐勝 2013.2.7.初出; 2019.5.10.改訂; 2020.7.30.改訂; 2020.8.31.改訂; 2021.12.10.改訂)


解説執筆

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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