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産地を追って no.5 全国的に生産ダウン

2 「のり養殖」の現実

「のり養殖」というと如何にも海を囲って人工的に育てているというように聞こえますが、「人の手」を借りて育てるのは、のりの種(果胞子・かほうし)をかき殻に植え着けて、水槽の中で育て、熟成させてのり網に付着させるまで、水温、光のあて具合などの管理を行うところまでです。

その後は、のりの種を付けたのり網を海中に張込みますが、ここからはほとんど天候や海況といった自然環境にまかせるよりほかなく、日照量、気温等の気象環境、水温、のりに必要な栄養分、河川の流量などによる海況の変化を見ながら生長を見守ります。その間に張り込んだのり網を海中から吊り上げて、日光に直接当ててのりの細胞が生長しアミノ酸を蓄える手助けをしたり、のり網に付着する汚れをシャワーを使って洗い流したり、休みなく見守り手をかけて育てるのが「のり養殖」の実態です。

写真1
写真1. 日中はのり網に付いた汚れをシャワーで洗い流します(九州有明地区支柱漁場・以下同)

降雨量が多いと、海中に降り注ぐ雨の量も河川から海に流れ込む水量も多くなり、河川に近い漁場では海水の塩分濃度が低くなります。

写真2
写真2. のり芽を強くして栄養分(アミノ酸類)を蓄えるよう空気中にさらします。

海水の塩分濃度の低下は海に住む植物にとって細胞の生長を鈍らせ、体質を弱らせます。その結果、のり特有の病気で、海苔の葉先が赤くなってちぎれ落ちてしまう「あかぐされ病」という障害が出ます。これを防ぐために、のり網を塩分濃度が少しでも高くなるよう海中30センチ以下の深さに下げたり、日中は空中高く吊り上げて日光と風に当てて乾かして病害を防いだり、光合成を活発にさせて栄養分を蓄えさせて体質を強くするなど、昼夜を問わず見張りそして見守ります。毎日が気象海況との戦いになります。

写真3
写真3. 海上に吊り上げられたのり網の下は船で潜り抜けられます。

のりの養殖(生産)期間は、毎年10月から4月末までです。秋から早春にかけて養殖が行われますが、最盛期は12月から3月までで、寒風が吹き抜ける海上での作業になります。のり摘みは午前4時頃から始まり、午前11時頃に作業が終わると、一息する間もなく今度は天候や海況を見ながらのり網の管理のため再び漁場に出ます。皆さんにおいしい海苔を作り送り出すための海上(漁場)でののり網管理が、のり漁家にとっては「義務だよ」ということになります。

そしてもうひとつ、意外に知られていないことですが、のりは、二酸化炭素(CO2)を吸収して酸素を空気中に放出する光合成作用も行っています。全国ののり養殖漁場に張込まれているのり網は、およそ125万枚と見られています。のり網1枚の大きさは、産地によって多少違いますが、幅は約1m50cm、長さ約18mなので、その面積は約27㎡になります。

時期により地区的な片寄りはありますが、10月から翌年3月までは、少なくとも全国ののり産地の海上3,375万㎡分の光合成作用が行われていることになります。データによりますとのり網1㎡で1日に20~27g程度のCO2吸収が行われているようで、養殖時期には、全国の海苔漁場で相当量の地球のCO2削減に幾らかは役立っているのではないかと、密かに思っています。「のりも地球環境を少しでも良くしようと頑張っているんだなぁ~」という感傷に浸ると、おいしさを蓄えるために努力している「のり」の姿がいとおしくなります。

3 「山」と「川」と「海」

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