産地情報 | 産地リポート

産地を追って no.10 のり生産の課題

2 のり需要に経済効果は及ぶか

現在の需要動向から推定しても、中・上質で比較的価値の高い嗜好品として販売出来る家庭用商品やギフト商品の販売が増えない限り、低価格品の増産で目先の売上高を追う生産を続けなければならないでしょう。

しかし、それでは、のり養殖漁業としての産業基盤が弱く、後継者を確保することも難しく、今後ののり養殖漁業の在り方を根本的に見直さなければならないでしょう。のり漁家のもっとも大きな悩みであります。

いま、国内では新たな経済政策が動き始めています。その影響が一般家庭にも大きく影響を始め、家庭内需要の増加に繋(つな)がるようになると、嗜好品としてののり価値も注目されるようになるのだろうか‐と一抹の不安を感じながらも期待するところは大きいようです。

バブル崩壊以来、平成3年頃からのりの価格面の価値が落ち始めています。バブル景気が始まったのは昭和61年頃からといわれていますが、当時ののり生産数量は87億枚、1枚当りの平均価格は11円36銭でした。

しかし、のりの生産量と需要動向の推移を追って見ますと、昭和40年代からのりは贈答品として価値の高い商品の一つで当時、デパートの中元、歳暮贈答商品として常に1位、2位を保っていました。価値の高い嗜好品として贈り物に使われていました。当時の全国生産枚数は50~50億枚程度でした。それだけに、当時としては栄養価の高い貴重な食品として人気がありました。昭和40年代の全国入札会の平均価格は1枚当り12円(10円~16円)以上でした。当時の消費者物価指数から見ると平成24年の3.9倍に相当すると見られており、高価な商品でもありました。

その後、養殖技術の開発が進み昭和50年代は70~80億枚時代に入りましたが、好景気で大手企業のビル建設ラッシュで引き出物としての需要も多く、需要の伸びは大きなものでした。

ところが企業の経済状態が良くなると輸入食品も増え、企業の商品開発も多様になります。同時に、消費者の需要も多様化するようになります。食品産業界も40年代後半から60年代前半に掛けて国産品、輸入品とも多様な商品が開発され、食生活の多様化が始まるとともに、特に嗜好食品としての乾物類の需要は停滞から減少の傾向を見せ始めます。

のり産業界も需要が伸びている時代に増産体制が先行し、バブル経済が終息に向う時期にかけて増産体制が整い100億枚生産時代に突入しました。しかし、平成3年頃から贈答商品の需要が減退を始め上質品の販売量も減退し、上質品の産地価格も値下がりを見せ始めました。

上質品の販売減退によりのり養殖漁家の収入も減少を始めましたが、この時期からコンビエンスストアで販売されるのり巻きおにぎりの需要が飛躍的に増え始めました。その大きな要因の一つは、おにぎりに直接のりを巻きつけた「直まきおにぎり」から、包装資材(フイルム素材)の開発によりのりをフイルム素材で包装して食べる時におにぎりのご飯に密着させることが出来るようになったことです。のりのおいしさをより感じてもらえる食べ方が普及し始めたからです。

毎年コンビニおにぎりの需要が増えるとともに、それに相応しいのり養殖の方法も行われれるようになりましたが、次第におにぎり用のりの納入先への販売競争も始まり、納入価格が安くなり、同時に産地の入札価格が下落しました。そのため、入札価格が安くなった分だけ生産枚数を増やして、収入を上げる方法へと生産体制が進み、1日に3~5回養殖漁場に入り、手を掛けて上質品を作る(労力と経費を掛ける)姿が少なくなりました。

しかも、年毎にコンビニに限らず弁当などの外食業界の需要は増え続け、いまは、全国ののり生産枚数の約70%近くが、業務用需要となっているため、全国の入札平均価格も1枚当り8~9円台になっています。

大雑把ではありますが、単純に昭和40年代の消費者物価指数に比べると3.9倍も低い価値観になると言えるかも知れません。

日本ののりは業務用中心になり、上級品ではなくむしろ中・下級品と言われるものが確りした入札価格になっているのが現状で、その結果、見た目は同じ様な質の韓国のりがより安い価格で輸入されるため、韓国のりを原料にしたおにぎりの販売も見られるようになっています。今後このような商品が販売シェアを拡げることも十分考えなければなりません。

韓国産のりを使用したおにぎり
写真2.韓国産のりを使用したおにぎり。米は国内産。全農系列のスーパーマーケット「Aコープ」で販売されていた(具なしの塩味のりを使用した商品)。1個78円。

日本国内でののり販売状況を見ると、嗜好品としての価値が薄れ始めています。今後は、海外市場で日本産のりの価値を認めてもらうように努力すると同時に、国内でも、のりの本当のおいしさと価値が分かって貰えるような販売方法で、生産する人の顔が見えるような販売方法を産地から発信することを真剣に考えなければ、日本特有の海産物としてのり産業の維持が難しいのではないかと危惧する産地の声を強く感じるようになっています。

今後の国内経済の発展対策が講じられていますが、のり産業界にもその経済効果が及ぶようになることに期待を掛けている声も多く聞かれます。

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