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リレーエッセイ 2014・冬
カラフルな海藻という植物 1/2/横浜 康継
藻類と「五界説」

生物は動物と植物に分けられるというのが昔からの常識でしたが、生物学の研究が進んだ結果、動物と植物との境があいまいになったばかりか、20世紀の半ば過ぎには、生物を5群に分けるという説(五界説)が登場し、これが多くの生物学者に支持されるようになったのです。この説では、単細胞のミクロな仲間から海藻のような大型の仲間までを含む藻類を、原生動物と一緒にまとめて原生生物界に入れてしまい、植物界のメンバーは陸上で進化したコケ類・シダ類・種子植物の3グループだけに限定しているのですが、海藻について生理学や生態学の研究を続けてきた私には強い抵抗感があります。

五界説の登場には、電子顕微鏡やDNA分析法の発達というような、物理・化学的技術の進歩が大きく影響したと言えるのでしょうが、この説は生物について超ミクロ構造や遺伝子組成というような構造や成分という静的側面だけを重視して、光合成や呼吸などの機能的側面をほとんど無視していると評価できそうです。

生物を動物と植物に分けた場合の「植物」の特徴は、生きるのに必要な物質を自力で生産できるという能力にありそうです。菌類を除けば、その能力は「光合成」と表現できるのですが、私達の多くが知っている「植物の光合成」は、二酸化炭素(CO2)と水を材料にして太陽光のエネルギーを閉じ込めた有機物(デンプンなど)を合成するはたらきで、そのような有機物を利用して動物である私達も生きている、ということも多くの人は知っています。このような光合成という重要なはたらきを営むのは草や木の枝に生える緑色の葉であることも常識になっていますが、実はアサクサノリの仲間を含む海藻も光合成を営むのです。しかし、海苔とよばれてきたアサクサノリの仲間は緑色を帯びていません。

海藻も陸上植物の葉のように緑色の色素をもっている

最近でも市販されている海苔の多くは上から見ると黒みがかって見えますが、1枚だけを透かして見ると緑色に見えます。しかし、かなり以前に市販されていた「乾し海苔」は、1枚だけ透かして見ると赤みがかった紫色に見えたのですが、最近市販されているのは「乾し海苔」を機械で焼いた「焼き海苔」であるからです。つまり、昔の「乾し海苔」の色はアサクサノリなどの自然のままの色に近かったと言えるのですが、そのような色をした海藻が光合成を営むということは、陸上で緑色の葉を見慣れた私たちには不思議に思えてしまいます。しかし、最近市販の海苔が透かして見ると緑色に見えるという事実に答えが隠されているのです。

昔は天日乾しのままで出荷され市販されていた海苔が、現在では全自動乾燥機の発達で短時間で乾燥された製品の「乾し海苔」をさらに機械で焼いて「焼き海苔」としてから販売するようになったのですが、昔の「乾し海苔」でも火鉢などの火で加熱すれば、緑色に見えるように変わったのです。アサクサノリの仲間は緑色の色素のほかに赤色の色素も多量に含んでいます。そして天日乾燥しただけの「乾し海苔」あるいは全自動乾燥機で乾燥した「乾し海苔」には赤い色素も多量に残っています。この赤い色素は高温加熱によって分解するので、最近市販されている「焼き海苔」は緑色に見えるようになったのです。

陸上に生えている草や木の葉が緑色に見えるのはクロロフィル(葉緑素)と呼ばれる緑色の色素を多量に含んでいるためです。この色素は光合成に不可欠な物質なのですが、黒色にしか見えない生きたノリ類の体内にも含まれているのは、大変不思議なことと思えます。また、クロロフィルはその他の海藻ばかりでなくミクロな藻類の細胞内にも含まれ、光合成という重要な作用の主役を果たしているのです。しかし、藻類と呼ばれる生物のほとんどは緑色ではありません。

私達の常識になっている「光合成」では、二酸化炭素(CO2)が吸収され酸素(O2)が排出されます。このような「酸素発生型光合成」は、今から約30億年前に藍藻と呼ばれる単細胞の藻類によって営まれ始めたのですが、このミクロな藻類が他の様々な生物に寄生して葉緑体に変化したために、光合成を営む多様な藻類が生まれたのです。最近の説では、藻類は10の大分類群(門)に分けられていますが、それらのどの群に属するメンバーでも「酸素発生型光合成」を営んでいます。それらの中で陸上植物の葉と同様な緑色を帯びた仲間は、緑色植物門内のごく一部に過ぎません。

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