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海藻は藻類の中でも例外的に肉眼で見えるほどの大きな体に生育する仲間ですが、紅藻類・褐藻類・緑藻類という3群に分けられています。これらはたがいに縁の遠い3つの門に属しているのですが、紅・褐・緑という頭文字からも、すべてが緑一色ではないということを理解できます。しかし、紅藻類に属している種のすべてが紅色を帯びているわけでもなく、浅所に生える種ほど黒に近く、深所に生える種ほど紅色に近くなるという傾向があるのです(写真1・2)。同じような生育深度による色彩の違いは他の群でも見られるため、海藻は非常にカラフルで、その程度は絵の具以上になるのです。
ところで、藻類のほとんどは緑色を帯びていないので、緑色のクロロフィルを本当に含有しているのか不安になります。そこで私は非常に簡便な方法で含有色素を調べてみました。やはり材料として最も扱いやすいのは肉眼視できる海藻なので、それらと陸上植物の緑葉とを比較してみたところ、すべてにクロロフィルが含まれていることは確認できたのですが、紅藻類と褐藻類の色素組成が陸上植物の葉とは大きく異なることがわかりました。とくに褐藻類はフコキサンチンという橙色の色素を多量に含んでいることがわかり、そのためにワカメやコンブそしてアラメなどは濃い褐色を帯びていると理解できたのです(写真3)。そして、さらに驚くような事実が緑藻類で見つかりました。
緑藻類では、浅所産の種は鮮緑色を呈するのに対して、深所産の種は褐色がかった暗緑色(みる色)を呈する、ということがわかったので、前者を浅所型緑藻そして後者を深所型緑藻と呼んでいたのですが、色素の種類は浅所型緑藻と陸上植物の葉とで完全に一致したのです。そのため陸上植物はアオノリ類やアオサ類に近い浅所型緑藻の子孫であると考えたくなったのですが、最近の分子生物学の成果によって、浅所型緑藻と同じ色を帯びた単細胞のミクロな藻が陸上植物に進化した、と推定されるようになったのです。
深所型緑藻はなぜ「みる色」なのかという疑問には、「海中の深所まで届く緑色光を吸収しやすいため」と答えることができます。また、同じ紅藻類に属していてもノリ類は黒っぽく、深所に生える種ほど赤くなるのはなぜか、という疑問にも同様に答えることができます。最近市販されている「焼き海苔」が透かして見ると緑色に見えるという事実は、カラフルな海藻も陸上の草木の葉と同じように光合成を営み、太陽光をエネルギー源として利用しているという、海中での重要な現象の存在を証言している、と言えるのではないでしょうか。
執筆者
横浜 康継(よこはま・やすつぐ)
元南三陸町自然環境活用センター所長、元筑波大学教授(元筑波大学下田臨海実験センター長)、理学博士、第4回海洋立国推進功労者表彰受賞(2011年)