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リレーエッセイ 2018・秋
特異な再生機能をもつ不思議な海藻 2/2/堀 貫治
ハネモ類における原形質からの細胞再生

バロニア類とともにハネモ類の細胞再生現象は実験的に良く観察されています。日本に生息するハネモ類としては、ハネモ(Bryopsis plumosa)やオオハネモ(B. maxima)、ネザシハネモ(B. corticulans)を含む10種が報告されています。いずれも大型(体高5~20 cm)の単細胞からなる多核管状体を体制としており、オオハネモの中には体高50 cmにも達するものも見つかっています(図1、中央写真)。これら多核管状体緑藻は核の分裂後に細胞質分裂を伴わなかったために隔膜が生じず、多核になったと考えられています。ハネモ類の場合、単細胞でありながら仮根糸、茎・葉様の形態を呈しており、太さ0.3~1mmほどの主軸から羽状、放射状に密に側枝を出し、その姿が羽毛に似ていることから “ハネモ”と名付けられたとのことです。ヒトは約60兆個の細胞からなる多細胞生物で、各細胞のサイズは直径10~30 µm、最も大きいものでも卵子の150 µmほどなので、ハネモ属緑藻がいかに巨大な細胞からなるかがわかります。

ハネモ類は異形世代交代(巨視的な配偶体と微視的な胞子体の交代)を行ない、配偶体は種により雌雄同株または異株で有性生殖により増殖します。他方、前述のように、細胞内容物からの細胞再生により増殖することも知られています。すなわち、藻体が損傷を受けると、海水中に流れ出たオルガネラを含む細胞内容物は自然に凝集して凝集塊となり、数時間内に凝集塊を取り囲む細胞膜が形成され球状化してプロトプラストとなります(図1および2)。

図1. オオハネモにおける細胞内容物(原形質)からの細胞再生
図1. オオハネモにおける細胞内容物(原形質)からの細胞再生
図2. ハネモ細胞内容物からの自然プロトプラスト、発芽体および糸状体の形成過程
図2. ハネモ細胞内容物からの自然プロトプラスト、発芽体および糸状体の形成過程

このようにして生じたプロトプラストは、高等植物やノリなどにおいて細胞壁を酵素消化して得られる細胞(通常のプロトプラスト)と区別するために、自然プロトプラストまたはサブプロトプラストと呼ばれています。この自然プロトプラストは24時間ほどで細胞壁を新生し、やがて発芽して糸状体となり、もとの成熟藻体に生長します(図2)。なお、細胞壁が形成されるまでは、プロトプラスト同士を融合させて巨大化させたり、逆に刻んで小さなプロトプラストにすることも可能です(図2)。

図3. 自然プロトプラスト由来のハネモ培養藻体
図3. 自然プロトプラスト由来のハネモ培養藻体
※図をクリックすると拡大します

この細胞内容物からの細胞再生現象は高等植物細胞や動物細胞では認められておらず、海産の多核単細胞性緑藻に特異的な生物現象で、細胞の損傷治癒の一形態と考えられています。傷を負った時に癒える現象を損傷治癒と呼んでいますが、ハネモ類でも藻体が切断されると、切断箇所にこぶ状のものができて癒えることが観察されます。また、切断した藻体切片をくっつけると接ぎ木のように2つの切片が融合することも知られています。したがって、前述のオルガネラからの細胞再構築現象はきわめて特殊な再生現象と言えます。なお、この自然プロトプラストに由来するハネモ藻体は温度管理さえできれば、いつまでも培養維持が可能であり、不死の海藻とも言えます(図3)。

このハネモの細胞再構築においては、pHや金属イオン(Ca2+、Na+)、細胞内小胞、細胞内液など種々のアセンブリ要素が必要と言われていますが、その全容は未解明です。この多核単細胞性緑藻に見られる細胞再生システムは、細胞構築の基礎的解明や種間・異物認識などの基礎免疫学におけるモデル実験系としてだけでなく、新規の遺伝子導入系や人工植物細胞の構築など実用的にも役立つ可能性があり、夢が膨らみます。

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執筆者

堀 貫治(ほり・かんじ)

一般財団法人海苔増殖振興会「海苔の成分の有効利用に関する検討委員会」委員、広島大学大学院生物圏科学研究科特任教授、広島大学名誉教授、農学博士

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