海藻の遊離アミノ酸蓄積 1/2/天野 秀臣 < 海苔百景 リレーエッセイ < 海苔増殖振興会ホーム

エッセイ&フォトギャラリー

海苔百景

海苔百景のトップに戻る 海苔百景のトップに戻る

リレーエッセイ 2018・冬
海藻の遊離アミノ酸蓄積 1/2/天野 秀臣
はじめに

毎年初冬になるとテレビや新聞などでノリ養殖が始まったことが報じられ、12月には食品売り場には新海苔が並び、味と香りを楽しむことができます。海苔の味は主に遊離アミノ酸(タンパク質と結合していない一つひとつが遊離の状態で存在するアミノ酸)のグルタミン酸(うま味と酸味)、アラニン(甘味)、アスパラギン酸(うま味と酸味)、核酸関連物質のイノシン酸(カツオ節の呈味成分)、グアニル酸(シイタケの呈味成分)によるところが大きいといわれます。特にグルタミン酸の味はイノシン酸やグアニル酸によって増強(味の相乗効果)されることも知られています。海苔だけでなく食用海藻にとって味は大変重要なものです。そこで今回は、よく食べられている海藻ではどのような遊離アミノ酸の分布(組成)であるか、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸などの呈味アミノ酸を中心に考えてみました。

海藻の遊離アミノ酸分布

日本には海藻が1,500~2,000種類程度あり、そのうち100種類程度が食べられているといわれます。しかし全国的に流通して日常的に量販店で購買可能なものはそう多くはありません。表1に馴染み深い海藻4種類における乾物100g当たりの遊離アミノ酸含量を示しました。

表1 海藻中の遊離アミノ酸 (乾燥藻体100g当たりのmg)
アミノ酸 緑藻   褐藻   紅藻
アナアオサ   ワカメ マコンブ   アマノリ類
アスパラギン酸 4   5 1,450   322
アラニン 18   612 150   1,530
β-アラニン     14
アロイソロイシン   3 8  
アルギニン 3   37 2   15
α-アミノ酪酸     8
α-アミノイソ酪酸     2
イソロイシン 4   11 8   20
グリシン 9   455 9   24
グルタミン酸 32   90 4,100   1,330
コンドリン 29   41  
シスチン   3  
システイン酸 36   5  
D-システノール酸 152   2  
スレオニン 6   90 17   46
セリン 12   131 27   37
チロシン 2   10 4   13
トリプトファン 2   6  
バリン 4   11 3   41
ヒスチジン   2 1   10
プロリン 40   156 175   4
フェニルアラニン 4   9 5   7
メチオニン   2 3   2
リシン 1   35 5   12
ロイシン 7   20 5   31
タウリン 2   12 1   1,210
合 計 367   1,748 5,973   4,678
+:痕跡量、空欄は未分析. 天野(1991)を改変.

アナアオサはアオノリ類と同様に、味よりも香りの良さでお好み焼きやたこ焼きのトッピングや菓子などに使われます。その遊離アミノ酸組成は、D‐システノール酸1種類が主要なものです。この1種類だけで全遊離アミノ酸の41.4%に達しています。残念なことに、D‐システノール酸がどのような味であるか筆者は確認できていません。

ワカメはアラニンとグリシン(甘味)が主要な遊離アミノ酸で、両呈味アミノ酸で全遊離アミノ酸の61%に達します。

マコンブはグルタミン酸とアスパラギン酸が多く、両呈味アミノ酸で全遊離アミノ酸の92.9%になります。しかもグルタミン酸の含有量がマコンブ100g当たり4,100mgと極めて多いことが注目されます。日本料理ではマコンブはコンブ類の最高級品で上等な“ダシ”が取れる材料として人気があります。コンブ類は冷水域に生育する海藻です。しかし平成30年のマコンブを含むコンブ類の生産量は、主産地の北海道で海水温の上昇による不漁が続いたため減少しました。特に道南産の天然物の減少が著しく、値段も上昇しました。海の中の温暖化の影響が和食の“ダシ”にまで及んでいることに驚かされます。

私達が食べる海苔はアマノリ類のスサビノリが主なものですが、この表ではアマノリ類の遊離アミノ酸は特にアラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸、タウリンが多いことがわかります。その他の遊離アミノ酸の含有量は少量です。遊離アミノ酸の多くは何らかの味があり、グルタミン酸、アラニン、アスパラギン酸の味については上で述べました。タウリンはアサリでは味に風味や“こく”を出すといわれますが、海苔を含めその他の食物では不明です。アラニン、グルタミン酸、アスパラギン酸の3種呈味アミノ酸で全遊離アミノ酸の68%を占めます。

この表に示されていない多数の海藻の分析例を見ると、一般的には中性のアラニンと酸性のグルタミン酸およびアスパラギン酸が多く、塩基性アミノ酸のリシン(苦味)、アルギニン(苦味)、ヒスチジン(苦味)とイオウ元素を含むシスチン(無味)、メチオニン(苦味)が少ない傾向があるが、緑藻、褐藻、紅藻間における遊離アミノ酸組成にはっきりしたパターンは認められません。むしろ海藻の種類による差のほうが大きいです。

「海藻の遊離アミノ酸蓄積 1/2/天野 秀臣 | 海苔百景 リレーエッセイ」ページのトップに戻る