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リレーエッセイ 2019・春
渓流に生育する淡水藻カワノリ 1/2/有賀 祐勝
カワノリと河口域のアオノリを混同しないで

カワノリ(学名Prasiola japonica Yatabe)は,関東地方から鹿児島県にかけて太平洋に注ぐ河川の上流(渓流)にほぼ限定されて生育している淡水産の藻類です。夏から秋にかけて採集され、「川海苔」(かわのり)として食用に供されます。日本では絶滅危惧種に指定されています。注意していただきたいのは、四国の四万十川河口近辺など海水と淡水が混じりあう汽水域に生育していて食用に採取されるアオノリ類も「川海苔」や「かわのり」という商品名で販売されているのでよく知られていますが、これとは全く違う藻類です。

カワノリは薄い膜状の鮮やかな緑色の藻類で、外観は海岸の潮間帯上部に生育するアオサに似ています。夏から秋にかけて渓流の岩石の上などに生育するカワノリを採集して、海産の養殖アマノリ類と同じような四角形に抄いて天日乾燥で薄い板状の乾燥製品が作られます。伝統的にはカワノリの乾燥製品はアマノリ類の海苔より大判に仕上げられ、濃い緑色で、炭火などで炙ってから食べます。酢の物(三杯酢)や吸い物あるいは佃煮として食されることもあります。甘味があって非常に美味しいのですが、海苔よりもかなり高価なものです。渓流中の岩石の上に生育するカワノリは一度に大量に採集するのは難しいので、それを乾燥したものは貴重な高級品です。乾燥製品は昔から産地の河川名などをつけて呼ばれることが多く、大谷川苔(だいやがわのり)(栃木県日光市大谷川)、桐生のり・高沢のり(群馬県桐生川)、多摩川苔(東京都秋川・日原川)、桂川のり(山梨県桂川)、富士のり(静岡県富士川)、芝川のり(静岡県富士宮市芝川)、円原苔(岐阜県武儀川)、青藍苔(徳島県那賀川)、山浦のり(大分県筑後川)、高千穂苔(宮崎県高千穂川)、菊池川苔(熊本県菊池川)などがよく知られています。(「苔」は「のり」と読みます。)

埼玉県荒川水系の渓流で採集されたカワノリの葉状体(原口和夫氏提供)
埼玉県荒川水系の渓流で採集されたカワノリの葉状体(原口和夫氏提供)

カワノリは上記のほか、栃木県塩原(那珂川支流の箒川)、熊本県八代郡五家荘(球磨川)、紀伊半島大台ケ原(木澤川)、伊豆半島天城山麓(川津川)等にも産することが知られています。埼玉県荒川水系のカワノリに関しては、海抜300~800mの山地渓流で、中生代~古生代に属す古い地層の地域で石灰岩を伴う渓流、真夏でも水温19℃以下で弱アルカリ性(pH 7.0以上)、渓流の水面に太陽光が届く明るさ(木漏れ日程度)などが生育条件とされています。

カワノリの分布は、本州は栃木県~岐阜県の太平洋岸に注ぐ河川と四国・九州の河川の上流で清冽な流水の渓流とされ、水中の岩石の上に密集して着生繁茂します。昔から太平洋に注ぐ河川の上流にほぼ限定されていると言われてきましたが、現在では日本海に注ぐ河川の上流にも分布することが知られるようになっています。その一つが長野県南佐久郡佐久穂町の都沢川(信濃川水系)で、ここのカワノリは長野県の文化財となっています。いずれも渓流の清冽な流水中に生育する貴重な淡水藻類で、近年の開発に伴って減少する傾向にあり、絶滅危惧種として保護されたり、養殖が試みられたりしています。例えば、静岡県富士宮市の芝川のりは、かつて貴重な産品で徳川家康に献上されたと伝えられており、現在富士宮市では保護育成活動が行われています。

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