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リレーエッセイ 2020・冬
海外コンブを見て北海道コンブの将来を考える 2/2/四ツ倉 典滋
中国の養殖コンブ

今や世界のコンブ生産の中心地となった中国には元来天然コンブは生育していませんでしたが、現在では広く沿岸域において養殖が行われており、生産量は増加し続けています。北海道においては、現在、天然生産と養殖生産を合わせて1万5千トン程度(2018年は15,161トン)の漁獲量(乾燥重量)であるのに対して、中国の養殖生産量は150万トン以上(2018年は1,522,537トン)になっています。なかでも、一番の生産地は南部の福建省で、全体のおよそ半分を占めているのは驚きです。

概して、中国のコンブ生産体制は南部と北部で異なり、前者では地域や家族ぐるみで養殖が進められるのに対して、後者では大きな企業が養殖産業をコントロールしています。私は3年前に中国科学院海洋学研究所のPang Shaojun先生やShan Tifeng先生とともに遼寧省や山東省の企業をいくつか訪問しましたが、最大規模のところは年間20億枚の種苗コンブを扱い、総漁獲量は30万トン(湿重量)と聞かされました。漁獲は、主に4月から6月にかけて行われますが、訪れた時はその最盛期であり、多くの作業員が黙々と働く現場 -無数の浮き球が繋がれた海上施設における採取作業や、巨大なベルトコンベアーを使ったボイル塩蔵作業、見渡す限り広がる干場での乾燥作業- は、どれもスケールが大きく、圧倒的でした(図4)。生産物は一部、ロシアやアメリカへ輸出もされるようですが、国内消費量は多く、これまでは薬用や工業用としての用途が多かったものの、現在、この企業では約80%を食材として製品化しているそうです。

図4 中国北部における養殖コンブ生産の作業風景(遼寧省・山東省).(左)養殖場の風景.(中)ベルトコンベアーで運ばれるコンブ.(右)干場での乾燥風景.
図4 中国北部における養殖コンブ生産の作業風景(遼寧省・山東省).(左)養殖場の風景.(中)ベルトコンベアーで運ばれるコンブ.(右)干場での乾燥風景.

中国では1950年代に国の重点政策として養殖技術の開発が始まり、夏苗技術や大規模種苗生産システムの確立、育種株の作出・利用などの成果を受けて現在の生産体制になりました。しかし、その過程で苦難が無かったわけではなく、これまでに海洋環境の変化や自然災害による生育障害や漁場の荒廃、病気の蔓延などに直面し乗り越えています -近年では、2015年に秋季の高水温と付着物の大量発生が原因と思われる種苗の脱落が起こり、種苗不足とその価格高騰が深刻化しています-。中国の養殖コンブのルーツは北海道から渡ったマコンブであることが知られています。そのうえで、現地における生産について知れば知るほど、中国に比べて生育環境に適しており、(現在もなお)天然資源に富み、長い歴史と豊かな経験のある北海道のコンブ生産の未来は明るいと思うのは私だけではないはずです。

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執筆者

四ツ倉 典滋(よつくら・のりしげ)

北海道大学准教授、北海道大学北方生物圏フィールド科学センター忍路臨海実験所所長、NPO法人北海道こんぶ研究会理事長、昆布の栄養機能研究会理事、水産学博士

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