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リレーエッセイ 2022・夏
食品の味に関する中学校での学習 1/2
満腹中枢と呈味成分の関係

食事の楽しみの一つに満腹感がありますが、満腹後には眠くなることをしばしば経験します。食後の眠気にはいくつかの理由がありますが、食後血糖値の急上昇を元に戻そうとする反応によるとの考えがあります。血糖値の急上昇を避けるために、日常の食生活ではゆっくりと食事をすることや、野菜や海藻のように食物繊維の多いものを先ず先に食べて、糖の吸収を緩やかにすることも推奨されています。海苔は食物繊維が多く、可食部100g当たり乾海苔で31.2g、焼海苔で36.0gあり(日本食品標準成分表2020年版 8訂)、且つ水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の双方を含む(吉江 2001)優れたものです。
脳の中にある視床下部には、食欲を増す食欲中枢と食欲を抑制する満腹中枢があります。満腹中枢の感受性が低い人はどうしても過食になりますが、ゆっくり食べる人は食べ終わった後に満腹感を得やすいと言われています。食事で食べた海苔のたんぱく質は、消化管内で分解され、アミノ酸になります。日本食品標準成分表2020年版(八訂)アミノ酸編によれば、海苔のタンパク質1g当たりのアミノ酸組成は表2のようになります。本表から明らかのように、最も多いアミノ酸は、グルタミン酸とアラニンです。一般に、食事で取り入れるたんぱく質で最も多いアミノ酸はグルタミン酸ですが、海苔の場合も調味料を使用している味付け海苔以外は同じ傾向です。


表2 アミノ酸組成によるたんぱく質1g 当たりのアミノ酸成分表
[「日本食品標準成分表2020年版(八訂)アミノ酸成分表 編」より引用 ]
アミノ酸 乾海苔 焼海苔 味付海苔
イソロイシン 52 48 44
ロイシン 91 89 82
リシン (リジン) 63 61 58
含硫アミノ酸合計 49 45 39
メチオニン 28 26 22
シスチン 21 19 17
芳香族アミノ酸合計 89 89 80
フェニルアラニン 47 47 44
チロシン 42 42 36
トレオニン(スレオニン) 65 65 62
トリプトファン 16 16 14
バリン 81 76 71
ヒスチジン 18 20 19
アルギニン 71 73 65
アラニン 140 140 120
アスパラギン酸 110 120 110
グルタミン酸 140 140 220
グリシン 75 70 70
プロリン 52 51 51
セリン 56 64 59
ヒドロキシプロリン
アミノ酸組成計 1,168 1,167 1,164

―:未測定


脳内におけるグルタミン酸の機能

遊離のグルタミン酸は口中では呈味物質ですが、脳内ではγ-アミノ酪酸(GABA)などと同様に神経伝達物質として働き、神経活動亢進作用があります。グルタミン酸は脳細胞内ではグルコースから独自に作られるので、食品中に多量に存在しても脳に取り込まれることはありません。しかし体内での重要な役割の一つとして、他の多くの化合物の合成に使われています。このことは窒素の体内での代謝に関係する高度な内容になりますので、中学校での学習では扱いません。

終わりに

学習指導要領の改訂について2014年(平成26年11月)に、文部科学大臣から中央教育審議会に対し「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」諮問が行われました。これを受けて、2016年(平成28年12月)に中央教育審議会から、「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」が公表され、2017年(平成29年3月)に幼稚園教育要領及び小・中学校学習指導要領が告示されました。ほぼ同時期に内閣府食品安全委員会は学校教育関係者に対して、食品安全に関する研修会を実施しています。その中で5基本味とそれに関係する食品添加物についても説明し、生徒達だけでなく教育現場の関係者にも食の大切さを訴えています。

海苔は伝統食品として大切なものです。美味しさを裏付ける成分と体内における挙動を理解する人が多くなることを期待しています。

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執筆者

天野 秀臣(あまの・ひでおみ)

一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、
三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士

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