海藻で花粉症を防ぐことができるか、あるいは症状を軽くすることができるかについて、41種類の海藻と1種類の海草の抗アレルギー性を、食品会社との共同研究でラットの好塩基性白血病細胞を用いて、ヒスタミン放出抑制率で調べました。その結果を表1に示しました。
分類 | 海藻 | 効果 | 抑制率(%) | 分類 | 海藻 | 効果 | 抑制率(%) |
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アナアオサ | ― | フクロノり | ― | ||||
シオグサの一種 | ― | フトモズク | ― | ||||
緑藻 | ヒトエグサ | ― | 褐藻 | マメタワラ | ― | ||
ヒビミドロ | ― | ヤツマタモク | ― | ||||
ミル | ― | ワカメ | ― | ||||
アミジグサ | ― | イバラノリ | ― | ||||
イシゲ | + | 63.2 | ウスカワカニノテ | ― | |||
イロロ | + | 63.3 | オキツノリ | ― | |||
ウミウチワ | ― | オゴノリ | ― | ||||
ウミトラノオ | + | 40.7 | カバノリ | ― | |||
オオバモク | + | 70.0 | クロソゾ | ― | |||
オバクサ | ― | シラモ | ― | ||||
褐藻 | カゴメノリ | ― | 紅藻 | ツルツル | ― | ||
カジメ | + | 91.9 | ハナフノリ | ― | |||
サガラメ | + | 74.3 | フクロフノり | ― | |||
ジョロモク | ― | フサカニノテ | ― | ||||
シワヤハズ | ― | ヘリトリカニノテ | ― | ||||
タマハハキモク | ― | マクサ | ― | ||||
トゲモク | + | 20.0 | ミツデソゾ | ― | |||
ナガシマモク | ― | ムカデノリ | ― | ||||
ヒジキ | ― | 海草 | エビアマモ | ― |
Sugiura, Takeuchi, Kakinuma, Amano: Fisheries Science, 2006; 72: 1286-1291 を参照して作成。
調べた限りでは、緑藻と紅藻には効果はなく、一部の褐藻はある程度アレルギーを防ぐ効果があることが分かりました。最近、他の多くの文献と併せて、アラメ類、カジメ類のフロロタンニン類の抗アレルギー/抗炎症効果を概説しましたので、ご覧いただければ幸いです(註)。
ポリフェノール類は渋みを持つものが多く、かつ、さまざまな構造を持ち、その数は数千に及ぶとも言われています。よく知られたものに、カテキン類、フラボノイド類、タンニン類などがあります。ポリフェノール類による抗アレルギー活性は、主に肥満細胞(マスト細胞とも呼ぶ)での脱顆粒抑制/防止効果、抗炎症効果、ヒアルロニダーゼ活性抑制/防止効果、酸化ストレス抑制/防止による抗炎症効果によるものです。
「花粉症環境保健マニュアル2022」改訂版(環境省)によると、花粉症の患者数は「正確なことはわからないけれど、1998年、2008年、2019年に行われた全国的な調査では、ほぼ10年ごとに有病率は10%増加している」とされています。この資料では、1998年は19.6%、2008年29.8%、2019年が42.5%となっています。その内でスギ花粉が2019年の調査では38.8%を占めていました。ほぼ3人に1人がスギ花粉症だったと言われ、花粉症患者の多さは国民病とも言われるほどになっています。
令和5年5月30日に、花粉症に関する関係閣僚会議決定で、花粉症対策の全体像が示されています。花粉症の治療については、対症療法と根治療法があります。対症療法には点眼薬、点鼻薬、内服薬などが、根治療法には花粉など原因抗原の除去と回避、アレルゲン免疫療法(減感作療法又は皮下免疫療法とも呼ばれる皮下注射)、舌下免疫療法などがあります。しかし、花粉症対策には、先ずは対症療法を開始すること、効果が不十分な場合はアレルゲン免疫療法を試みるように言われています。
表2に皮下免疫療法と舌下免疫療法の違いを示しました。両者には一長一短があるようですが、後者には公費保険の適用も決まり、今後の実施例が増える可能性も考えられます。
1) 皮下免疫療法 | 2) 舌下免疫療法 |
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医療機関で皮下注射 | 自宅で舌下錠を服用 |
副作用(アナフラキシー)の 可能性あり |
副作用の可能性は 皮下免疫療法より少ない |
通院回数は最初に多い | 通院回数は 皮下免疫療法より少ない |
患者の理解が必要 | 患者の特に詳しい理解が必要 |
スギ花粉舌下免疫療法と呼ばれる方法は、花粉症成分を花粉症発症初期から少しずつ患者に与えて体質改善をする方法です。効果は人により異なり、また効果が出るまでに数年かかると言われています。有用な方法であると評価されていますが、長所と短所があり、副作用も報告されています(表2)。筆者はこの方法をはじめて耳にした時、にわかには信じられませんでした。花粉を体から遠ざけることが、抗アレルギー薬の服用より好ましいと考えていたためです。従って、現在でも花粉症対策としては自宅内でもマスクと眼鏡をし、日中でも時々顔を洗い、衣類の素材に気をつけ、寝ている時もできるだけマスクをしています。桜の花が散り、花粉の飛散シーズンが過ぎるのをじっと待つ極めて消極的かつ個人的な方法ですので、他人にはお勧めはできません。
林野庁によれば、2020年のスギ「苗木」生産の5割は無花粉や少花粉スギとのことです。将来無花粉や少花粉スギが増え、スギ花粉症に煩わされない日が来ることを期待しています。
(註)Sugiura, Y., H. Katsuzaki, K. Imai and H. Amano 2021. The anti-allergic and anti-inflammatory effects of phlorotannins from the edible brown algae, Ecklonia sp. and Eisenia sp. Natural Product Communications, 16(12), 1-15.
執筆者
天野 秀臣(あまの・ひでおみ)
一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、
三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士