私は学生時代には、将来は魚類の人工飼料の研究をしたいと考えていました。当時は人工飼料開発の黎明期でした。魚粉にビタミン類、脂質、炭水化物、ミネラルその他の栄養素を混合し、成長がよく、健康な魚をつくるさまざまな研究が始まっていました。4年生になり、所属した研究室は、魚類栄養を専門とするところでした。アワビも研究対象でしたが、海藻を与えずに、海藻の成分を用いて飼育ができるか調べていました。アワビの餌は、ご承知のように褐藻を中心とする海藻です。海藻の豊富な岩礁地帯が良い生育場所になりますが、最近は水温などの環境の変化や磯焼けなどによる藻場の減少もあり、アワビ資源の将来が心配されます。
研究室では、表11) に示すようにクロアワビを4群に分け、A群は市販の乾燥ワカメのみを与え、B群には乾燥ワカメ10%とアルギン酸ナトリウムおよびその他の栄養素を、C、D群には、アルギン酸ナトリウム、各種ビタミン、ホワイトフィシュミール、α-アミラーゼで水解したデンプン、セルロース粉末を含む餌料を与えて飼育していました。餌の調製はこれら成分を混合後、糊状に練りガラス板に塗り、塩化カルシウム溶液に浸すことでアルギン酸カルシウムのゲルを作成しました。このゲル状の餌を食べたアワビは死なずに成長し、貝殻の色は、A群、B~D群いずれも新たにできた部分は緑色であったことを記憶しています。
投与した餌料
試験区 |
乾燥ワカメ | アルギン酸 ナトリウム |
ホワイト フィッシュミール |
水解 デンプン |
セルロース 粉末 |
---|---|---|---|---|---|
A | 100 | ||||
B* | 10 | 45 | 40 | 5 | |
C* | 60 | 20 | 15 | 5 | |
D* | 20 | 60 | 15 | 5 |
最近、魚市場で外国から輸入された養殖のアワビをよく見かけるようになりました。特徴は殻の色が緑色です。私の住む町にも魚市場があり、一般の人でも自由に魚介類を購入できます。この魚市場には、輸入品で殻が緑色の養殖アワビと、国産で殻が茶色のアワビの双方が売られています。前者は養殖物であることと、殻が茶色でないことなどから、価格は比較的安いものです。味については、前者でも私がステーキにして食べたところ、それなりに美味でした。
Aは外国で養殖された輸入品で、殻の色は緑色と茶色が混ざっています。Bは米国カリフォルニア産の天然アワビで、貝殻の一番外側の殻皮は茶色です。残念ながら、双方のアワビがどのような餌を食べていたかは不明ですが、養殖アワビの殻は部位により緑色と茶色が認められます。養殖時期により、与えられた餌が異なっていたのかもしれません。