国産アワビでも、養殖アワビの殻は緑色となることは以前から報告されています1)。最近、この緑色の改善を試みた試験がされました。その概要は表2~4に示すように、「褐藻類に紅藻を20~30%混合した餌料を給餌することにより、成長も良好で貝殻色が天然に近いアワビを生産することが可能である。」との山下らの報告2)です。
試験区 | 褐藻類 | 紅藻類 |
---|---|---|
1 | 100 | 0 |
2 | 70 | 30 |
3 | 0 | 100 |
山下浩史・井上久雄・菊池 孝・坂口秀雄:平成23年度 愛媛県農林水産研究所 水産研究センター事業報告.5pp.2)
試験区 | 配合餌料 | 褐藻類 | 紅藻類 |
---|---|---|---|
H-1 | 配合A | ― | ― |
H-2 | 配合S-A | ― | ― |
H-3 | ― | 100 | 0 |
H-4 | ― | 90 | 10 |
H-5 | ― | 80 | 20 |
H-6 | ― | 70 | 30 |
山下浩史・井上久雄・菊池 孝・坂口秀雄:平成23年度 愛媛県農林水産研究所 水産研究センター事業報告.5pp.2)
試験区 | 投餌条件 |
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H-7 | 配合餌料AとS-Aの交互投餌 |
H-8 | チガイソとオゴノリ交互投餌 |
山下浩史・井上久雄・菊池 孝・坂口秀雄:平成23年度 愛媛県農林水産研究所 水産研究センター事業報告.5pp.2)
紅藻は水溶性タンパク質のフィコビリタンパク質を持っています。色素部分はフィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニンとよばれ、タンパク質と結合しています3)。アワビに摂食された後に消化、吸収、代謝などされるので、前述の報告2)はフィコビリタンパク質の代謝面からも裏付けされると考えられます。
わが国では、昔からアワビはいろいろなことに使われてきました。ことわざでは、アワビの片思いが有名ですが、アワビを食べると目のきれいな子供が生まれると言い、妊婦の栄養補充に使われたりしました。また、藁葺き屋根を壊すと火事を防ぐ“まじない”として中に海のものとしてアワビの殻が置いてあることもありました。忍者屋敷の屋根にもアワビの貝殻が光っていました。現在は、アワビは美味しい高級な食材として利用されていますので、資源の枯渇を心配せずに楽しみたいと願っています。
引用文献
1)
荻野珍吉・太田頴亮:日本水産学会誌,29(7),691~694(1963).
2)
山下浩史・井上久雄・菊池 孝・坂口秀雄:植物性色素等活用商品開発プロジェクト研究,平成23年度愛媛県農林水産研究センター事業報告.
3)
天野秀臣(2000):海藻の生化学とバイオテクノロジー,フィコビリン(フィコビリタンパク質).山口勝己(編):水産生物化学.東京大学出版会.p.192-195.
執筆者
天野 秀臣(あまの・ひでおみ)
一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、
三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士