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リレーエッセイ 2024・秋
焼海苔の色・湿気た海苔の色 1/2
湿気たのりの色の変化

乾のりが湿気ると図1に示したように赤~赤紫色に変色する。スサビノリ葉状体の乾燥フィルムについてその過程を追跡してみた。ノリ葉状体の乾燥フィルムを常温で室内放置して、0、31、40、61日目の吸光曲線を記録したのが図4である。同一の葉状体を測定しているので、きれいな結果が得られた。大きな変化は最も左側と最も右側のクロロフィルɑによるピークで、およそ2か月でほぼ完全に消えている。かなりはっきりしたピークが残っているのは左から3番目のフィコエリスリンの吸収によるピークであり、左から4番目のフィコシアニンの吸収によるピークは若干残っているもののほとんど消えていると判断される。すなわち、水分が供給されて湿気ることによってクロロフィルɑが破壊(変性)されてフィコエリスリンが残っているのである。

図4 スサビノリ葉状体の乾燥フィルムを常温放置した時の吸光曲線の変化.0 (Jan.12),31 (Feb.12), 40 (Feb.21), 61 日目 (Mar.14) の吸光曲線.横軸は波長(nm), 縦軸は吸光度.
図4 スサビノリ葉状体の乾燥フィルムを常温放置した時の吸光曲線の変化.
0 (Jan.12),31 (Feb.12), 40 (Feb.21), 61 日目 (Mar.14) の吸光曲線.
横軸は波長(nm), 縦軸は吸光度.

湿気たノリ葉状体の乾燥フィルムを焼いた時の吸光曲線の変化を記録したものが図5である。湿気たノリで残っていたフィコエリスリンによる吸収は、焼くことによって完全に消えている。この結果はやはり熱することによってフィコエリスリンが消えることを示している。(短波長側で吸光度が高くなっているのは、焼くことによってノリ葉状体乾燥フィルムが不透明になるからである。)

図5 湿気たスサビノリ葉状体の乾燥フィルム(実線)とそれを焼いた時(点線)の吸光曲線の比較.横軸は波長(nm),縦軸は吸光度.
図5 湿気たスサビノリ葉状体の乾燥フィルム(実線)とそれを焼いた
時(点線)の吸光曲線の比較.横軸は波長(nm),縦軸は吸光度.

以上のように、ノリの色の変化のうち、乾のりを焼いた時の緑色への変化と乾のりが湿気た時の赤変について可視部吸光度の変化に基づいて説明することが出来る。赤変を防ぐには、出来る限り湿度を低く保つこと、低温(冷凍が有効)に保つことなどに配慮して保存することが重要である。長期にわたって保管するのでなく、なるべく早く食べるのが最も良い食べ方と言えよう。

*註: 本稿で扱っている「吸光度」と色素濃度との関係は厳密には単波長の光が真溶液(透明な溶液)に当たった時に成り立つ。多くの生物試料は一般に不透明であり、光が当たった時には吸収と共に反射・散乱が生じるので、不透明試料に関しては「吸光度(absorbance)」ではなく「減光度(attenuance)」と呼ぶべきである。しかし、一般読者の理解しやすさを考慮して、あえて「吸光度」を用いた。

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会前会長、
公益財団法人自然保護助成基金顧問、東京水産大学名誉教授、理学博士

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