眼を閉じて、焼海苔で全面を包んだ“おむすび”(“おにぎり”)を想い浮かべ、それを二つに割ると、真ん中から梅干し一個が現れた。ちょっと眺めていると口の中いっぱいに唾液が広がった。幼少時代の遠足の“おむすび”弁当を思い出している。(本リレーエッセイ欄「2014年・夏」参照)
巻き寿司には細巻きと太巻きがある。細巻きの代表は「かっぱ巻き」か。太巻きは「恵方巻き」が近年ではポピュラーのようであるが、いろいろな具を芯に入れた太巻きは古くから一般的で、具には干瓢(かんぴょう)、田麩(でんぶ)、沢庵(たくあん)、卵焼きなどをはじめ、キュウリや菜っ葉の漬物など多様なものが使われてきた。恵方巻きはそのままかぶりつくようにして食べるが、恵方巻き以外の太巻きは輪切りにしたものが供されるので、具を芯にした単純なもののほか、多種類の具とそれらの配置によって多様な芸術的切り口を見せることが可能である。
房州(千葉県房総半島地域)の「祭り寿司」(太巻き)は農家の人々が冠婚葬祭や祝い事の時に“おむすび”ではなく“巻きもの”をふるまったのが始まりと言われており、家庭料理あるいは郷土料理として知られている(図1)。ご飯とともに巻き込む具の種類と配置によって、輪切りにした時の切り口は見事に芸術性を発揮する。焼海苔で巻いた伝統的な太巻き寿司で、家庭料理として長年にわたり一般家庭で伝承されてきた食文化であり、日本食として誇るべき文化である。今後も末永く伝承されることを強く願う。[*註]
四角形に仕上げられた乾海苔を初めて見た欧米人は、それを“ブラックペーパー”と呼んで、日本人は黑い紙を食べると驚いたそうである。欧米では黒い食品は縁起が良くないと思われる傾向があるという話を聞くことがあるが、イカ墨をからませたスパゲティなどあることを考慮すれば“黒い”食品が嫌われるとは限らないと思いたい。その点、“カリフォルニアロール”と呼ばれる寿司のように海苔を寿司の内部に巻き込んで見えないようにして、外部を他の食品で巻いてまで、なぜ寿司を提供しようとするのか、理解に苦しむところである。もっとも、基本的には「召し上がりたければ、どうぞお好きなように!」「美味しいものは美味しいのです!」というのが私の考えである。



