帰国後、米国でできなかった寒天培地上での海藻の組織培養に取り組むこととしました。供試海藻は、緑藻アナアオサUlva pertusaを1切片あたり20~50細胞程度になるように細切したものを用いました。寒天培地上では切片の生長が遅い場合がしばしば見られます。そのために、寒天(Difco Bacto Agar)を0.7%含むASS1培地を基本培地とし、表2に示した植物生長調節物質5種類、有機酸4種類、糖3種類をそれぞれ単独で添加し、生長促進効果を調べました。
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植物生長調節物質 5種類 カイネチン、ゼアチン、インドール酢酸(IAA)、 ナフタレン酢酸 (NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸 (2,4-D) |
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有機酸 4種類 リンゴ酸、クエン酸、α-ケトグルタール酸、酒石酸 |
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糖 3種類 グルコース、フルクトース、キシロース |
培養条件は、14時間明期・10時間暗期、20℃、3000 luxとし、30日後(糖は60日後)に生長率を測定しました。表3に結果を示しました。植物生長調節物質添加区は、生長率の高い方から順にゼアチン、カイネチン、インドール酢酸(IAA)、ナフタレン酢酸(NAA)、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)でした。ゼアチンの至適濃度は5μg/100mlで対照の3.6倍に生長しました。有機酸添加区は、α-ケトグルタール酸が最も生長がよく、酒石酸、リンゴ酸、クエン酸と続きました。α-ケトグルタール酸の至適濃度は3mg/100mlで、対照の3.5倍に生長しました。糖添加区ではグルコースが最も生長がよく、フルクトース、キシロースと続きました。グルコースの至適濃度は2g/100mlで、対照の3倍に生長しました。糖類や有機酸類の添加と生長促進の詳しいメカニズムについては、現段階では不明です。
| 物 質 | 生長率 |
|---|---|
| 植物生長調節物質 | |
| カイネチン | 3.2 |
| ゼアチン | 3.6 |
| IAA | 2.2 |
| 2,4-D | 2.0 |
| NAA | 2.1 |
| 有機酸 | |
| α-ケトグルタール酸 | 3.5 |
| リンゴ酸 | 3.0 |
| クエン酸 | 1.5 |
| 酒石酸 | 3.4 |
| 糖 | |
| グルコース | 2.9 |
| フルクトース | 2.6 |
| キシロース | 2.1 |
| *生長率は培養開始時を1とした場合を示す. | |
思い返すと、初めて海藻の組織培養に取り組んでから今年で38年が過ぎました。昨年から今年にかけての天候不順は前例がないものでした。ほとんど枯れていたベランダの植物が新芽を出したので、その生命力に感心しています。海藻も陸上植物に負けない生命力を持ち、私たちの気づいていない様々な機能があると思います。私自身の研究対象は、徐々に海藻の機能性や生理活性物質へと移ってきました。今後、多くの海藻で研究が進み、高齢化社会にも役立つ魅力的な成果が出ることを期待しています。
執筆者
天野 秀臣(あまの・ひでおみ)
一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士



