美しくありたいと願うのは男女を問わず、多くの人に共通した意識でもある。美しさを保つには毎日の適切な食事、十分な睡眠が必要であることは言うまでもなく、心身ともに健康であることが欠かせない。また、外面を装うことで美しく見せたいと願うのも事実で、そのための道具の一つとして化粧品が存在する。化粧の歴史は古く、その習慣は古代から存在したようであるが、化粧様式だけでなく化粧品そのものも時代の流れとともに進化してきている。現在では、化粧品を化粧品一般(Cosmetics)、さらに薬用効果をもった化粧品(Cosmeceuticals)と栄養・医薬効果をもった化粧品(Nutricosmetics)に区別して使用することも多い。特に最近になり、経口摂取することで化粧効果(インナーケア効果)を示すNutricosmeticsが注目されている。これまで化粧品素材としては天然物、鉱物、合成品が使われてきたが、現在はナチュラル志向が強く、天然物素材への回帰願望が高いようである。
天然物素材と言えば、幼少期に女の子達が「オシロイバナ(白粉花)」の黒い実(種子)を集め、中の白い粉を顔につけたりして遊んでいたのを思い出す。この白粉がデンプンであることを後で知ったが、デンプンを顔になすりつけて遊んでいたのである。なお、江戸時代には大人の女性もこの粉を「おしろい」の代用として使っていたそうで、香りを放つその花は夕方咲き朝方しぼむことから「夕化粧」とも呼ばれている。海藻素材に関して、私の妻は幼少期の頃、シャンプーした後の髪をコンディショナー代わりに水に浸したワカメで母親がなぞってくれていたらしい。おそらく艶、ぬめりを与えるための伝承素材だったのだろう。妻曰く「おかげで若い頃はいつも私の髪は艶があってきれいだと周りから言われていた」とのことだった。最近になり、確かに天然素材の中でも新たな化粧品素材のターゲットとして海藻が注目されている。ここでは、化粧品素材としての海藻成分の開発動向にふれてみたい。
海藻の糖質、タンパク質、脂質を含む種々の物質群には陸上植物由来のものとは異なる構造や機能を示す成分が多いことからユニークな成分素材として多方面で利用されてきているのは周知のことであるが、化粧品素材としてもユニークなものが多い。
糖質は海藻の主要成分であり資源的にも有望である。海藻多糖は多量の水酸基をもつことから水分子と水素結合して水和化に富み、さらに硫酸基をもつことで水分子とより強く結合して粘性、ゲル化能を示す。この性質から海藻多糖は保湿剤、艶出し、増粘剤としてスキンケア、メイクアップ、ヘアケア、ボディケアに広く利用されている。これら海藻多糖としては、褐藻由来(アルギン酸、ラミナラン、フコイダン)、紅藻由来(寒天、カラギーナン、ポルフィラン)および緑藻由来(ウルバン)のものがあるが、その中には抗酸化、抗光老化、抗炎症、抗チロシナーゼ、抗エラスターゼ、抗コラゲナーゼ、抗アレルギー、プレバイオティクスなどの作用を示すものもあり、Nutricosmeticsとしての利用も期待されている。なお、これら海藻多糖から調製したオリゴ糖は親分子以上の強い活性を示すことも報告されている。
タンパク質については紅藻由来のフィコビリプロテイン(フィコエリスリン、フィコシアニン)が着色剤(赤、ピンク、紫、青)として化粧品にも利用されている。この中で、フィコエリスリンには抗酸化作用も認められている。また、糖結合性タンパク質である紅藻由来レクチンはヒアルロン酸生合成促進作用を示すことから、クリームなどの化粧品素材としての利用も図られている。タンパク質加水分解物のペプチド(5〜30残基)にも抗酸化作用などの化粧品機能が見出されており、例えばスサビノリ由来のタンパク質加水分解物ペプチドの合成品であるPPY1(アミノ酸5残基;KAQAD)には抗炎症作用(サイトカインの抑制)、PYP1-15(アミノ酸15残基;DPKGKQQAIHVAPSF)にはエラスチン・コラーゲン合成促進作用やマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)発現抑制作用などの化粧品効果が見出されている。
低分子水溶性成分であるマイコスポリン様アミノ酸(MAAs)は海藻由来の化粧品素材として現在最も注目されているものの一つである。海は紫外線を強く浴びる環境にあるので、多くの海洋生物はMAAsと名付けた紫外線(UV)吸収物質を体内(細胞質)に含み、紫外線から身体を守っている。これまで日焼け止め成分としては紫外線散乱剤の鉱物由来の微粒子(酸化亜鉛、酸化チタンなど)や紫外線吸収剤の人工合成品(オキシベンゾン、オクトクリニンなど)が良く使われているが、これらには使用感や副作用、環境への負荷などが懸念されている面もあり、また最近のナチュラル指向と相俟って天然素材のMAAsに人気が集まっている。MAAsは紫外線を吸収した後、その光エネルギーを無害な熱として放出する作用をもつことから安全性にも優れており地球環境に優しい化粧品素材として期待されている。
太陽光線(紫外線、可視光線、赤外線)の中の紫外線は波長の違いにより短波長側から順にUV-C(100~280 nm)、UV-B(280〜315 nm)、UV-A(315〜400nm)に分類され、UV-Cはオゾン層に吸収されるので、地表に届くのはUV-BとUV-Aである。UV-BやUV-Aが皮膚組織に届くと細胞内の光感受性色素が励起され、生じたエネルギーが酸素分子に伝わることで不対電子をもつ活性酸素(一重項酸素; 1O2、スーパーオキシド;・O2ー、ヒドロキシルラジカル;・OHなど)が生じる。この不安定な活性酸素種は高い反応性をもちタンパク質、脂質、核酸(DNA)などの生体分子を攻撃し、結果として老化や疾病を引き起こす。皮膚組織は表面から下部に向かって表皮、真皮、皮下組織で構成されるが、紫外線を浴びて赤く日焼け(サンバーン)してシミ、ソバカスを起こすのは表皮まで届くUV-B(到達する紫外線量の5%)の影響によるもので、シワ・タルミ(光老化)や黒くなる日焼け(サンタン)を起こすのはUV-A(同紫外線量の95%)が主たる要因である。表皮では基底層に存在するメラノサイトでメラニンが合成される。真皮では線維芽細胞でコラーゲン、エラスチンやヒアルロン酸が合成・分泌される一方、コラーゲンとエラスチンはUV-A照射を受けて線維芽細胞から分泌されたMMPsにより分解され、肌のはりがなくなりシワやタルミを引き起こすことになる。
MAAsはUV-BやUV-Aを吸収するとともに、表皮ではメラニン合成防止作用を示して日焼けやシミ、ソバカスの発生を防ぎ、真皮ではMMPs活性を阻止するとともにコラーゲン、エラスチンの合成を促進する作用をも示して、シワ、タルミの発生を防止する(抗光老化)。紫外線による酸化ストレスにより生じるコラーゲン-糖複合体(最終糖化産物)は肌の組織を硬くもろくしてシワやタルミを増進させることが知られているが、MAAsは抗酸化作用を通して抗糖化活性や抗炎症作用を示すことも報告されている。これらMAAsがもつ多様な機能が貴重な化粧品素材として期待されている由縁でもある。なお、MAAsはアミノシクロへキセノン型とアミノシクロヘキセンイミン型の2つの基本骨格をもち(図1)、これにアミノ酸を含む種々の側鎖構造が付加した30種類以上の構造類似体が種々の海藻から見出されている。アミノシクロヘキサノン型はUV310 nm付近(UV-B)に、アミノシクロヘキセンイミン型はUV340 nm付近(UV-A)に吸収極大を有する。MAAsの海藻含有量は海藻種によっても異なるが、紫外線が強い潮間帯域に生息する海藻で含量が高い。

(側鎖R1~R4 の違いにより30種類以上の構造類似体が存在)



