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産地を追って no.16 のり産業の在り方再考の時

1 海外需要拡大への足掛かりを考える

日本産のりの海外輸出数量が低迷しています。表1.のように2001年当時から10年間は、干しのり、焼きのり、味付けのりなどが、枚数換算で約1億3千万枚に達していました。2011年は福島原発の影響もあって減少しましたが、和食の「ユネスコ無形文化遺産」登録や円安の影響で今後次第に輸出が増えてくれるのではないかとひそかな望みを託していますが、そのためには、国内のり産業界が積極的な輸出活動を行なわなければなりません。

しかし、のり産業界の動きを見ていますと、個々の企業ではいくらかの動きが見られますが、業界全体として目に見える動きは感じられないのが現実です。

平成17年4月、小泉内閣時代に「農林水産物等輸出促進全国協議会」が設立され、農林水産物の輸出に本格的に取り組むようになりました。その結果、昨年、阿部内閣では、農水産食品の輸出額を1兆円に増やそうと大きな目標が掲げられました。世界の主要国で「ジャパン フード フェア」を開いて、対外輸出への大きな足掛かりを掴もうとしています。農産物、果樹製品、農水産物を原料にした日本食特有の加工製品、酒類など日本国内では考えられない高額商品の輸出も見られるようになっています。

表1.のり輸出の推移

「和食」の基本は「一汁三菜」と言われますが、朝食の付け合せとして「海苔」は欠かせない一品で、それなりの「価値」のある食品です。しかし、現実の動きを見ると「嗜好食品」として欠かせない最大の要素である「おいしさ」「栄養成分としての価値」が充分伝わらない商品が消費市場に横行しています。その結果、かつては、盆暮れの贈答商品としてデパートでの売れ行きは常に全国平均で1位、地方都市によって多少の差があっても1~3位までの売れ行きでしたが、昨今の販売状況を見ますと、販売量は10位にも入れるがどうかという低迷振りです。

立命館アジア太平洋大学で行なった留学生対象の「絵巻のり教室」の様子
立命館アジア太平洋大学で行なった留学生対象の「絵巻のり教室」の様子(出来栄えに感嘆の声が弾みました。)

のりの食味、食材としての価値を、溢れる食品の中で認めてもらうためにのり産業界の商品価値を維持する方法としてどのような方法が必要であるのか、のり産業界にはその対策が欠如しているような気がしてなりません。

のりは「天産物で自然食品」であるという基本的なことを忘れているのではないかと言う気がします。イギリスのドルー女史が、夏の間は貝殻にもぐりこみ糸状体の姿で生長し、秋口に子供の核胞子を放出して海洋に漂いながら岩壁などに着生して生長することを発見したことが、今日の養殖技術に発展し、かき殻の中で成長したのりの核胞子をのり網に付着させて育てる養殖技術が進み、沿岸から沖合の漁場にまで養殖技術が広がり量産出来るようになっています。

ところが、海上にビニールハウスを建て、海水温を調節することは現在の技術では不可能です。たとえ出来たとしても経費負担は大きなものになるでしょう。したがって、現在でもあくまでも「海苔は自然食品の天産物」です。

その自然と向き合った手作り感の高い商品であるだけに「価値ある嗜好食品」としての評価が一層高くなるのではないでしょうか。和食としての一つの食材ではありますが、「和食」の楽しい食べ方の一つとして「遊び心」も必要です。その楽しさを古くから地域文化の一つとして発展させて来たのが、千葉県房総半島から発祥した「太巻き祭りすし」ではないでしょうか。花柄などの図柄を野菜などの具材を重ねて作り上げるもので、金太郎飴のように、巻きすしの中味のどこを切っても同じデザインの巻きすしですが、この楽しさを、海外からの留学生にも楽しんで和食の一端を知ってもらおうと、節分を前にした1月21日に、大分県別府市にある「立命館アジア太平洋大学APU」で、「太巻き祭りすし」の講習会を行ないました。1日2回、各30名(60名)の留学生に参加して頂きました。アジア系の学生さんが中心になりましたが、作る楽しさ、出来栄えへの感激で会場は盛り上がりました。

絵巻すし作りに熱心に取り組むインドネシアの留学生
出来栄えを笑顔で写真撮影する学生
絵巻すし作りに熱心に取り組むインドネシアの留学生
出来栄えを笑顔で写真撮影する学生

製作中のグループを回りながら、「お国に帰られたらお友達のパーティーなどで作られると楽しさが拡がるのではないですか?」と問いかけると、「グッド アイディア!」と親指が立つ状態で楽しい雰囲気でした。「中のご飯の代わりに、パンを薄く切って片面にバターをつけてバターの面をのり全体に被せ、ハムを薄く切って、パンの切り端の他の具材を入れて巻いたものを並べてもデザインが出来るのではないでしょうか?」などのヒントを与えながらそれぞれの国の食材でデザインした絵巻を楽しんで頂くことも将来への輸出につながるヒントになるのではないかと考えながら、地道な海外の需要開発も必要ではないかと考えました。この催しは今年初めてのことでしたが、地元の新聞にも掲載して頂き話題になったようです。

H27.1.23 大分合同新聞 朝刊より
H27.1.23 大分合同新聞 朝刊より

このような地味な活動ですが、主催の九州地区漁連乾海苔共販協議会、大分県漁業協同組合、共催の立命館アジア太平洋大学生活協同組合では、今回の反響を見て、今後も年に数回は実行して、留学生に「和食」の面白さを楽しんでもらいたいと考えいるようです。

輸出市場の拡大はいま、大きな手掛かりを掴もうとしています。この機会に、のり産業界として、国が主催している「農林水産物等輸出促進協議会」に積極的に参加することが必要です。既に多くの農水産物が輸出の増加を見るようになっています。

海外で開かれる「ジャパン フード フェア」への積極的な参加が必要です。農水省ではホームページで積極的な参加を呼びかけています。また、海外でのジャパンフェアに関する情報も「農林水産物等輸出促進メールマガジン」を定期的な発行による参加要領や内容の情報提供が行われています。

国内では留学生に和食の楽しさを知ってもらい、海外のジャパンフェアでものりという食材の栄養成分の豊富さや、食材としての多様性をPRすることによって、輸出への大きな糸口を掴むことが出来るのではないでしょうか。のり産業界の大きな欠点は、実行の前に考え過ぎることです。さらに言えば、参加者の選定に必要以上に時間が掛かることです。もっと自由に行動できる体質を作り出す努力が必要だと思います。

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