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産地を追って no.17 のり産業の育成を考える

1 若者たちに学んで欲しいこと

しかし、のり養殖漁業の現実を見ていると後継するに相応しい家業になっているとは到底言い難いものがあります。これは、のり養殖漁家ばかりでなくのり流通業界にも通じるものがあります。その大きな原因は、古くから誰もが知っていた「のりの価値」を周囲の食変化を見ようとせず、売れるに任せた目先の生産・販売に終始し、消費者の嗜好食品の多様化による変化を十分見ようとしなかった生販の優柔不断な姿が、「のりの価値」に対する消費者の関心を薄れさせたことにあると言えましょう。

のり需要の現状を見ていると、「のり」と言う食品に対する一般消費者の知名度は高いものがありますが、低質品が多く「価値」に対する認知度は低いようです。嗜好食品であるだけに、多くの嗜好食品が氾濫する今の時代の中で消費者の嗜好に合うような魅力のある食品として育てながら販売を行なうためには、初心に帰って「味・香り・栄養価・価格との比較」を十分消費者に味わってもらい、「価値」を認めてもらう販売努力が必要になっているようです。

嗜好食品に対する消費者は感じる魅力とは「おいしいということと作る人の顔が見える商品である」ということです。すべての商品作りで顔を見せることはなかなか出来ないことですが、「個人商店でもおいしい商品を作るところ」、「作る人が直接販売しながら試食させてくれる店」、「PRを積極的に行なっている大きな工場(企業)で作られる商品でも、販売員が商品内容を丁寧かつ親切に説明してくれる店」-などが消費者がこれを購入したいと思い、また「価値」を見出す楽しさにもつながるのではないでしょうか。

いま若者たちが「何とかならないか」と自問していることの大部分は、上質ののりを作ることに努力しても、その努力が報われるような価格で売れないことにもあるようです。

いま「価値ある」のりの需要を高めるためには、生産者の若い人たちがのり商社と協同試食販売を行なうか、産地や産地近くの商店街でのり漁家の若い人たちが空き店舗を借りたり、街頭でのテント試食販売などを行ない、漁家が消費者の顔を見て試食販売を行ない買う人の反応を知ることが大切だと思います。

後継者たちが自作ののりを、それがわずかでも地域の消費者に試食販売することで今後ののり作りについて多くのもの得ることになるでしょう。その行為は生産団体と指定商社の間の契約事項に反するほど多量のもにはならないでしょうし、むしろ「上質のりの価値」を産地から消費地に伝達する大きな役目を果たすことになるでしょう。

現在の消費地販売では、商社間の販売競争による低質品の出回りでのり需要そのものが低減しています。前章の全国の後継者の集まりは「海苔サミット」と呼ばれていますが、そのスタートは全国の後継者たちが手をつなぎ、今後ののり養殖の在り方を根本的に見直す良いタイミングだと思います。周囲からいろいろな声が聞こえて来るでしょう。全国的にのり養殖漁家が減少し、少子化時代を迎えて後継者予備軍はますます減少するでしょう。その現実を十分心に留めて、先輩や親たちがこの活動を全面的に支援する体制をいち早く築く努力が重要です。

熊本市内での産地試食直販会場
写真 熊本市内での産地試食直販会場

ある地区で「海の日」の記念行事の一環としてある漁協の後継者たちが、来場の消費者に自分たちの自信作であるおいしいのりの販売をしました。10枚500円の販売価格でしたが、試食した多くの消費者からは「こんなおいしいのりは食べたことがないどこで売っていますか?」という声が聞かれ、わずかな数量でしたが持参したのりを完売しました。

その時の喜びは大変大きな励みになったようで「10枚500円で完売しました」と言う参加した後継者の声が弾んでいました。

とはいうものの、南北に長い海岸線を持つ日本の各産地の気象海況にはかなりの違いがあり、それ応じた養殖技術が必要です。このため「日本ののり」として統一した品種や養殖方法、格付けを作り出すことは不可能です。しかし、せめてその産地の養殖環境に応じた、その産地らしいおいしいのりの生産に取り組むことは可能ではないでしょうか。

たとえ生産枚数は少なくても、産地の後継者たちがおいしいのり作りに取り組むことを可能にし、その後継者に申し送り出来る周囲の環境作りがいま最も重要なことではないでしょうか。

自作ののりを消費者に直接販売することによって、消費者に「価値と価格」を知って戴く経験はまだ少ないようですが、一部の産地では自作ののりを商品化して販売しています。

残念ながら、まだ多くの産地が生産したのりをそのまま組合に出荷して、入札結果の販売金額だけを知らされているのが現実のようです。

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