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リレーエッセイ 2013・春
ノリの色彩いろいろ Ⅰ 3/3/有賀 祐勝
乾海苔を焼くと緑色になるのは

乾海苔(ほしのり)は黒い色をしているが、これを焼いた焼海苔(やきのり)は緑色である。漁場で育てられたノリには光合成色素として緑色のクロロフィルα、赤色のフィコエリスリン、青色のフィコシアニンとアロフィコシアニンが含まれており、このノリが細かく刻まれて細胞が何層かに重なった形で成形・乾燥されたものが乾海苔であり、アロフィコシアニンは他の色素に比べて少ないが緑と赤と青の色素が多量に含まれているため可視部のいろんな波長の光を全波長域にわたって吸収するので、そのため乾海苔は黒く見えるのである。色素含量が多いほど深い黒味を帯びることになる。この乾海苔を焼くと、高熱によって赤色のフィコエリスリンと青色のフィコシアニンが変性(分解)し緑色のクロロフィルα だけが残るので、焼海苔は緑色になるのである(図4)。古い水産化学の教科書などに「海苔を焼くと、熱によって赤いフィコエリスリンが青いフィコシアニンに変わるので、クロロフィルの緑にフィコシアニンの青が加わって鮮やかな緑色になる」と書かれたものがあるが、これは間違いで、熱によってフィコエリスリンがフィコシアニンに変わることはない。

図4 フィルム状の乾燥ノリ葉状体の可視部吸光曲線。焼く前(実線)と焼いた後(点線)の比較
図4 フィルム状の乾燥ノリ葉状体の可視部吸光曲線。焼く前(実線)と焼いた後(点線)の比較。野生型(青芽)のノリでも赤色型(赤芽)のノリでも、フィコエリスリンとフィコシアニンによる吸収帯の吸光度(左から3番目と4番目の吸収の山)が焼いた後では顕著に低下している。(有賀 1974)

また、乾海苔が湿気ると赤みを帯びてくる(赤紫色になる)が、これは空気中の水分によって緑色のクロロフィルαは分解されるものの赤色のフィコエリスリンと青色のフィコシアニンが分解されないで残っているからである。当然のことであるが、緑色のクロロフィルαは残っていないのだから、このようになった海苔を焼いても緑色にはならない。

上述したような生ノリや乾海苔の色調の変化は色素含量の変化に基づくものであるが、色素を定量分析しなくてもエンドオン型の自記分光光度計で可視部吸光曲線を記録し、得られた吸光曲線を比較することにより、容易に確かめることができる。

(突然変異に基づく遺伝的性質の「赤いノリ」(赤色型)や「緑のノリ」(緑色型)については、次回執筆の「ノリの色彩いろいろⅡ」で紹介する予定である。)

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執筆者

有賀 祐勝(あるが・ゆうしょう)

一般財団法人海苔増殖振興会副会長、浅海増殖研究中央協議会会長、公益財団法人自然保護助成基金理事長、東京水産大学名誉教授、理学博士

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