さて、和食の定番メニューが寿司となれば、寿司に欠かせないのがネタとなる魚介類と海苔!です。とりわけ巻き寿司は具材により好みもありましょうが、筆者は手巻き、軍艦巻きよりも昔ながらの巻き簾による「かんぴょう巻き」や、擦り下ろした山葵のみの「さび巻き」を好みとしています。これらに巻く海苔が良質のものならば、視覚(黒光り)、聴覚(切り音)、臭覚(焼いた香ばしさ)、味覚(磯の風味)、触覚(さわり心地)の五感に触れる味わいを楽しめますので、まさに和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことで、その存在感を増す食材と言えるのではないでしょうか!
そんな魅力を有する海苔ですが、海外で販売されている海苔は画像(写真5)に示す通り、ほぼ韓国産で占められており、日本食材店の全てとは申しませんが、ここで売られている海苔は日本のブランドですらも韓国産を使用とのことですので、今後は地名やブランド名の商標登録には万全を期した上で、価格問題(総じて現地の日本産海苔は韓国産の倍額以上で売られている)もありましょうが、わが国の海苔業界に対し、今こそ腰を据えた輸出努力を促したいと思います。
なお、前記のごとく、昨今では和食の定番メニューである寿司に加え、アニメ等の影響によりラーメン人気も急速に高まっているようで、去る4月14日付読売新聞朝刊の囲み記事「異国ログ」の中にも「ロンドンではいま、とんこつラーメン店に長い行列ができている。数年前から徐々に増えてきたところに昨秋、一風堂、金田家という福岡を拠点にする二つの有名店が、中心部の同じ通りを挟んで相次いで開店し、ブームに火がついた。・・・」と報じられておりますので、ラーメンと相性抜群の海苔ですからこの分野でも大いに消費拡大の余地があるものと思われます。
このような背景を踏まえますと、海苔の国内市場もご多分に漏れず、食の多様化や少子高齢化等に伴う縮小化により消費が落ち込み、かつては贈答品の花形だった高級海苔も今や昔日の感となっておりますので、今後は業界団体も各種食品(料理)に見合った海苔の特性ニーズやPR方法などを考慮し、新たな戦略の下に輸出という攻めの施策を前向きに推し進めてほしいのです。
とりわけ水産食品の欧米輸出にはHACCP(危害分析重要管理点方式)管理が義務付けられておりますが、筆者の理解では米国HACCP規則における水産食品の定義は魚介類(水生動物)を原料とするものとされておりますので、海苔・海藻類(水生植物)の加工品は管理義務から外れることとなり、この一面のみ見てもかなりの負担軽減となりますので、輸出を考える上での大きなメリットと考えられます。
さらに、国内海苔業界の再活性化のためには、せっかく定められた海苔の日(2月6日)や恵方巻の日(節分)をより積極的にPR努力するとともに、全国や県レベルで開催されている天皇杯に直結した農林水産祭参加表彰行事をより効果的に活用し、現状の農林水産大臣賞の受賞段階で満足することなく、過去の実績を返りみて、積極的に産品部門での天皇杯取得を目指すべきだと思うのです。
と申すのも、筆者は約15年ほど前に、天皇杯他三賞への選考作業に係る専門委員をつとめた経験を有しますが、前記表彰参加行事に指定された各種品評会で農水大臣賞を受賞した後、その上位の天皇杯受賞案件として申請される際の推薦文書の内容をみますと、品評会の内容と審査基準がごく簡単に記されているのみですので、専門委員が天皇杯に推奨したくても、それに応じる申請当事者の熱意やストーリー性に乏しく、推奨しようにも本審査の委員を納得させ得る文章が書けなかった記憶があります。天皇杯はブランド力を高める格好の機会なのですから、品評会当事者の熱意と業界団体の指導力に奮起を促したいものです。
当該リレーエッセイでは既に著名な海苔専門家の諸先生方が、海苔養殖の沿岸海域浄化に果たす役割や海苔・海藻類の有する機能性、栄養性などに触れ、スサビノリ主流の今日、味良し、香り良しと言われるアサクサノリが感慨深く記されてもおり、海苔養殖は生産段階から加工、流通、消費に至るまで、伝統食材ゆえに、極めて話題性に富んだ食材であることが窺い知れます。大学から海苔の講座が消え、専門家の数もごく限られてきたとの懸念の声がある中で、これら諸先生方の英知をお借りし、和食の食材を象徴する海苔の伝承と海外市場への飛躍に向け、少しでもお役に立てれば幸いです。
執筆者
齋藤 壽典(さいとう・としのり)
一般財団法人海苔増殖振興会会長、一般社団法人大日本水産会顧問、水産物・水産加工品輸出拡大協議会会長