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リレーエッセイ 2016・冬
進化する食品の冷凍技術―生ノリの急速凍結に思いを馳せて― 1/3/齋藤 壽典
はじめに

魚やノリには旬があり、旬のものであれば生が一番・・・という話はよく耳に致しますが、近年は冷凍技術の飛躍的進歩により、スーパー等の鮮魚売場における陳列棚を覗くと、梅の季節を迎えた昨今においても旬の秋さながらに、丸々として見るからに脂がのって美味しそうなサンマが売られており、この時期、嘗(かつ)ては開き干しか塩蔵品を食するところですが、生と全く遜色無い解凍サンマを味わうことが出来、折しも盛漁期であれば、生と冷凍(解凍)ものを比べた際には今やプロの料理人とて判別がつけ難いと言われるご時世です。

これは何も魚に限らず、果物や寿司なども然りで、老舗果物屋のホームページには「冷凍なのに“生”みたい」○○屋のフローズン・フルーツ新味登場・・・と言ったコピーに添えて、一口大にカットされ解凍されたマスクメロンやイチゴ、バナナ、マンゴーなどが、小分けケースに収められた商品がカタログ宣伝化され、売れ行き好調と聞いておりますし、握り寿司や集団給食施設におけるご膳食(写真1.※株式会社テクニカン提供)まで簡単に備えることができます。

写真1. 液体式急速凍結システムで凍結した煮魚・根菜料理・蒸野菜を解凍し盛り付けたご膳食
写真1. 液体式急速凍結システムで凍結した煮魚・根菜料理・蒸野菜を解凍し盛り付けたご膳食

筆者もその双方(冷凍果実と冷凍寿司)を試食致しましたが、その場においては剝(む)きたての果物として、また握りたての寿司として全く違和感なく美味しくいただきましたし、むしろ果物などはシャーベットを食べた時にも感じることですが、冷えた舌ざわりが甘味と果実特有の酸味を心地よく引き立て、通常以上に美味しい・・・との実感もあり、冷食と味覚に係る科学的解明への期待に思いを馳(は)せる一瞬でもありました。

かような体験を機に、今回は進化する昨今の食品冷凍技術に触れて見たいと思います。

冷凍食品の定義について

我が国では冷凍食品の定義として専門書には「洗浄などの下処理を施し、急速凍結を行い、包装された食品で、生産・貯蔵・輸送・配送・販売の各段階を通じ、消費者の手にわたるまで一貫して商品がマイナス18℃以下に保存されたもの」と記されており、急速凍結とマイナス18℃以下の温度帯による保存という文言が大きなキーワードとされています。

先ず一つ目の急速凍結は冷凍庫の中で食品を長時間かけて凍結する緩慢凍結に対し、文字通り短時間において凍結させるもので、その意義は後々の解凍時において品質劣化の要因となるドリップ(細胞内液)の流出を防ぐところにあります。

これは食品中に含まれる水分が凍結時に氷の結晶と化し、結晶が大きくなると冷凍食品の細胞組織が壊され、解凍した際にドリップが流出し、味や栄養分が失われ、食感も悪くなりますので、その防御措置が品質保持の要となりますが、端的に述べると凍結時間の長短によって氷結晶の大きさが決まり、急速凍結の場合には最大氷結晶生成帯(0℃~マイナス5℃)通過時間を短くすることで氷の結晶が微細になり、結晶が細胞膜を破壊することが出来なくなると言うわけです。但し、急速とは言え、あまりに瞬時であると、食品外部と食品内部との温度差が大きすぎて、食品にひび割れの恐れがあるとのことで、凍結速度にはその道におけるプロの経験と技が必要とされるようです。

また、マイナス18℃以下での保存は食品中における細菌・微生物の繁殖、生育や酵素の働きを抑え、油脂の酸化防止などを図るためで、味の変化や腐敗防止に欠かせない保存条件として欧米諸国に準拠し、スタンダード化されたものです。

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