さて、水産業界は目下、平成32(2020)年に水産物の輸出額を3,500億円に増加させるという国の定めた目標値の前倒し達成に向け、官民一体となって鋭意努力を傾けており、これまで順調に推移してきましたが、昨年来、輸出の主流を担ってきた北海道産ホタテの自然災害による不漁がたたり、一転して厳しい状況下に置かれています。
一方において、近年における国際的和食人気に乗じ、欧米や近隣諸国の富裕層をターゲットとして、空輸による生鮮魚介類の輸出にも力が入っておりますが、量的な限界や輸送コスト、食の安全性確保(ニューヨーク市は2015年7月に寄生虫対策として飲食店における生鮮魚の事前冷凍を義務化)などを考慮すれば、輸出商材として高品質な冷凍水産物(同加工品)の右に出るものは無いと考えます。
こうした背景からも、前述のごとき数々の利点を有するリキッドフリーザーは輸出戦略上の大きな武器になり得るものと確信しており、私どもの水産物・水産加工品輸出拡大協議会では、その先駆けとして去る1月12日にシンガポールにおける全漁連系統のアンテナショップ(JF KANDA WADATSUMI)において液体式凍結機による鮮度保持システムを紹介する試食付きセミナーを開催し、大きな反響を得ております(写真5.※全国漁業協同組合連合会提供)。
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当日の試食メニューは、日本で握ってリキッドフリーザーで凍結した寿司を自然解凍したもので(写真6.※全国漁業協同組合連合会提供)、参加者からは「鮮度、色、味のどれも解凍した寿司とは信じ難い」との驚きの声が発せられ、総じて高い評価が得られたとの報告を受けていますので、今後、さらにレベルアップ化、多品目化すれば、多種多様な冷凍加工品に対する具体的商談への動きが加速するものと思われます。
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また、国内においても当該装置は既に離島や僻地における資源の付加価値化をもたらす産業活性化に貢献するとともに、東日本大震災による被災地水産加工業再生への貢献事例なども紹介されておりますので、今後大いに注視していただきたいと思います。
さて、我々は日常生活において、普段あまり意識することなく冷凍食品に接し、食しておりますが、前述の如く進化した凍結技術について意識してみると、日頃、飲食店やパーティ会場等で当然の如く生鮮品として食していたものが、実は凍結解凍品であったというケースがかなりの頻度であるような気が致します。
とは言え、やはり旬のものを生でいただくのが食の王道と言えますので、新海苔の季節などは初摘みの新ものを無性に食し、香を味わいたくもなります。とりわけ生ノリ(原藻)は足が速いといわれますので、香と風味豊かな生ノリの澄まし汁などは産地でこそ味わえる稀少な食材と解しておりました。
ところが、近年における低温流通発展の恩恵なのか、先日鮮魚を売り物としている都内の和食店に入り、刺身の盛り合わせを注文したところ、刺身の大皿が生ノリの小皿付きで運ばれ、醤油の中にワサビならぬ生ノリを入れて刺身を食べるのだそうで、勧められるままに食したところ、予想外の美味さ、味わい深さに舌を巻いた次第なのです。
昨今、ノリ業界では低価格対策が大きな課題の一つとされており、最近目にした国の研究機関による「低価格な養殖ノリの利用拡大によるノリ養殖の競争強化」と題する研究テーマには背景・課題として「ノリ原藻は放置すると組織が軟弱化し、腐敗が速やかに進行するので、収穫後直ちに乾燥する必要があり、漁業者は自ら板ノリに加工する。ノリ加工において最大のコストは乾燥工程で、1枚当たり3円以上である。1枚当たりの売価がコストに合わない品質の場合は加工されない。このため、板ノリ以外の新たな用途の基礎となる安価な乾燥方法の開発が必要である。」と記され、「新たな中間素材(ノリミール)を生み出すなど、新たな需要の拡大を図る必要がある。」等の研究目標が掲げられております。
こうした取組も勿論重要とは思いますが、筆者と致しましては、先ずは進化した液体式急速凍結システムを活用した生ノリ(原藻)の凍結試験を行い、高品質(鮮度)な生ノリの長期保存を早急に確立させることこそノリ本来の付加価値を高め、低価格対策に資するものと考えており、今漁期での凍結試験実施を視野に尽力しているところです。
なお、当該エッセイの執筆に際し、冷凍食品の定義や液体式急速冷凍機等の専門分野に関する記述については筑波書房発刊「水産物の鮮度保持」(太田静行著)、㈱テクニカン発行【液体式急速冷凍機「凍眠」】より引用致しておりますことを申し添えます。
執筆者
齋藤 壽典(さいとう・としのり)
一般財団法人海苔増殖振興会会長、一般社団法人大日本水産会顧問、水産物・水産加工品輸出拡大協議会会長
「進化する食品の冷凍技術―生ノリの急速凍結に思いを馳せて― 3/3/齋藤 壽典
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