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リレーエッセイ 2016・冬
進化する食品の冷凍技術―生ノリの急速凍結に思いを馳せて― 2/3/齋藤 壽典
急速凍結技術について

さて、冷凍食品の定義付けにおいてポイントとされた急速凍結ですが、その技術にはCAS(セル・アライブ・システム)凍結、プロトン凍結、液体凍結など幾つかあるようですが、先ずは冷媒が空気か液体かの違いによって大きく区分され、CASやプロトンを含め、多くの急速凍結機は空気を冷やし、その空気で品物を凍らせていきます。

それに対し液体式急速凍結機(リキッドフリーザー)は冷却した液体(食品添加物として安全なもの)に浸漬して凍らせる手法とされています。

それぞれに持ち味があり、その選択は最終的にはユーザー側に委ねられるわけですが、水産物水産加工品輸出拡大協議会会長職にもある筆者は今般、折しもリキッドフリーザーメーカーとしてのパイオニア的存在である首都圏近郊のT社を視察する機会を得たことで、冷凍食品=急速凍結技術の有用性を再認識するに至り、とりわけ当該技術の活用が今後の水産物輸出並びに地方創生の大きな武器になり得る・・・との確信を込めて筆を走らせたわけなのです。

液体式急速凍結システムの利点について

急速凍結の意義は前述の通りですが、筆者がとりわけ液体式に着目するわけは突出したその凍結速度にあります。メーカー側の説明によれば、液体の熱伝導率は気体と比較した場合、圧倒的に大きく、水にエタノールを60%添加した水溶液(仮に飲んだとしても無害)をマイナス30℃まで冷却した際の冷媒による凍結速度は空気凍結の20倍、窒素ガスの8倍とされ、厚さが1センチのステーキ肉を凍結させるのに冷風ならば1時間かかるところを、わずか3分で凍結可能とのことです。

また、通常の冷風冷凍機では、冷凍時に細胞内の水分が凍り、100~200ミクロンサイズの突起状の結晶を作り、その結果として20~30ミクロンの肉や野菜の細胞を破壊し、旨み成分を失いますが、凍結速度に秀でた液体式であれば氷の結晶は5ミクロンと小さく丸みを帯びた形状となり、細胞膜を破ることなくドリップも抑えられ、ほぼ凍結前の味、食感が保たれるとのことです。アジとカニを例示した比較写真(写真2. 写真3. 写真4.※株式会社テクニカン提供)をご参照下さい。

※写真をクリックすると拡大します

写真2. 凍結方式による解凍時の差異(あじの場合) 上段:リキッド(液体式急速凍結)下段:エアーブラスト(冷風式急速凍結)
写真2. 凍結方式による解凍時の差異(あじの場合) 上段:リキッド(液体式急速凍結)下段:エアーブラスト(冷風式急速凍結)
写真3. エアーブラスト(冷風式急速凍結)での凍結時と解凍時の状態(かにの場合)
写真3. エアーブラスト(冷風式急速凍結)での凍結時と解凍時の状態(かにの場合)
写真4. リキッド(液体式急速冷凍)での凍結時と解凍時の状態(かにの場合)
写真4. リキッド(液体式急速冷凍)での凍結時と解凍時の状態(かにの場合)

T社の社長は凍結速度の要因たる気体と液体の熱伝導性の差についての分かりやすい例え話として、「気温90度のサウナで人はガマンできるのに、90度のお湯には指も入れられないでしょう!それほど気体と液体ではカロリーのボリュームが違うんです。液体のカロリーは気体より2,500~3,000倍も大きいのです。」と説明してくれました。

さらなる利点としては、凍結ムラがほとんど生じないことが指摘されております。空気冷媒ですと、どうしても空気が当たりやすい所と当たりにくい所とで、凍結時間に差が生じやすくなりますが、液体凍結の場合は大きなカロリーを持った液体が360度均一に熱を奪っていくので、ほぼムラ無く凍結することが出来るので、少量の凍結テストだけでは分かりにくい面もありますが、実際の運用の段階ではかなり差が出るようです。

なお、強いてデメリットを指摘するならば、液体凍結には脱気パックをしてから凍らせる食材が多いので、デコレーションケーキのような型崩れに対してデリケートすぎる商品は向いていないとのことですが、既に、握り寿司やカツサンド、スライスした刺身食材などで導入し、商品化されている事例も多々あることなどから、さほど問題視はされません。

これら当該システムの利点を整理すると、熱伝導が空気の20倍(まさに急速凍結)、ドリップが極小(生鮮状態を保持)、品質の向上(味、食感、見栄え、歩留まり)、スペースメリット(必要面積が最小)、作業環境の改善(寒い庫内での作業が不要)、容易な操作方法(ワンタッチ操作により凍結作業が簡単)、多品種・他業種で活用可(水産、精肉はじめ加工品、麺、惣菜、さらには血液保存など医療分野でも注目)、長期保存が可能(在庫管理が容易に)、解凍方法を選ばない(常温・低温・加熱・流水OK。特別な解凍庫は不要)ということになります。

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