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産地を追って no.14 転機を迎えているのり産業界

1 のり原藻の食材利用研究が課題

のり養殖の漁場環境によって、栄養塩量(主として海水中の窒素量)が低下すると、のり葉体中のアミノ酸量が減少して、のりの黒い色が緑黄色に減色(退色)する事があります。降雨量が少ない時や、藻類プランクトンが増えてのり養殖漁場の栄養塩をプランクトンが吸収した場合に、このような現象が起こります。

こうした現象を「色落ち」と言いますが、色落ちしたのりは入札会での価格が著しく低く、価格が付かない、つまり買ってもらえない場合もあります。のり1枚の製造原価は最低でも7~8円であるため、生産漁家は燃料や人手を掛けて製造機械でのりを作るのを止めてしまう事があります。

そのようなのりでも、ポリフラン、フコイダンなどの成分や食物繊維は上質の物と多少の差はありますが、人の生活に必要な微量成分のリン、カリュウム、カルシュウムなどについては大きな差はありません。食品標準成分表と福岡県水産海洋技術センターの製品分析結果を比較すると表1のようになります。

表1.中級品と色落ちのりの成分比較(乾海苔100グラム当たり)

色落ちのりを食用として成分を抽出する研究は行われていますが、成分抽出にかかるコストはかなり高くなります。従来も健康サプリメント、化粧品などの開発が行われていますが、それぞれの専門業態との共同研究は少なくのり業者独自で販売を行おうとしていますが、専門業態のような販売ルートを持たないため、販売に苦戦し撤退せざるを得ない場面も見られます。

色落ちのりとは言え、それぞれの成分やのり質を考えた商品開発を異業種の業界と共同開発し、開発商品に相応しい販売ルートを通して市場に登場させる方法を研究する必要があります。

独立行政法人水産総合研究センターや各県の水産試験場、工業試験場の協力を得て、のり原藻を素材として開発するための素材分析や成分分析研究は進んでいます。分析研究による素材開発には、経費も年月も必要です。しかし、上質品が安くなり、色落ち製品は買われない事も多い現状に対処するためには、その色落ち原藻を早く処置しなければなりません。

いまその対策の一翼を担おうと、東京、静岡ののり商社と共に対策に取り組んでいるところです。色落ち原藻は、のり養殖終漁期ののり網にぶら下がっています。この原藻を刈り採らなければ、のり網を引き揚げて、漁場の整理をすることも出来ません。

東京ののり商社はのり液状化の開発を、静岡ののり商社は農商工連携事業としてスナック食品を開発しています。私は、獣医さんと相談の結果、ペットフードの健康食開発に取組んでいます。

いずれの例でも、製品化に取り組んで頂く企業は、のり生産県の地場企業に限るようにしています。地域の産物で地域企業が特色のある地域性を活かした商品開発を行いたいというのが私たちの思いでもあります。15年ほど前に色落ちのりで大手のペットフードメーカーに製造協力をお願いしましたが、素材原料として求められる価格があまりにも安過ぎること、また大量かつ安定供給を要求されたため、中止していました。しかし今回は地元企業との提携で進めようということで、近隣のり生産県と提携しながら、のり生産を行う漁協の事業として取り組むための橋渡しとしての役割を果たすことが出来れば・・・という気持ちで取り組んでいます。

問題は、のり漁家が最後の引き揚げるのり網に着いているのりを摘採して海岸まで運び自然脱水状態にしてもらうのに、充分利益が出る経費の設定です。

色落ちしたのりとは言え、寒中の養殖作業の仕事ぶりを見ていると、最後の一葉まで労賃を手にすることが出来る状態でなければ、現在ののり漁家は、後継者も育てることが出来ず、衰微していくのは目に見えています。そうした危機感が感じられないのがのり産業界の現状ですが、国民の天然健康食品してのり産業をいま支える手立てをしなければなりません。

そのためにも、これからの食材として、のり原藻を如何に活かすかということを関係機関が本格的に取り組むべきであると強く思う次第です。

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