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産地を追って no.14 転機を迎えているのり産業界

1 生産地直販の課題

需要拡大がのり産業界にとっては当面の大きな課題です。昭和40年代から50年代の高度経済成長期は、のりは嗜好食品の中でも価値のある健康食として、お中元、お歳暮は勿論のこと、建設ラッシュのビルや家屋落成の贈り物などとして、多くの需要がありました。この当時ののりの生産数量は50~60億枚台で需要に追いつかず、海苔商社から「増産」が強く求められました。

そのため、のり養殖技術の開発が盛んに行われ、工業団地の拡大に伴う沿岸漁場の喪失に対抗し沖合漁場で養殖する「浮き流し養殖」技術、のり種を着けた網を冷凍保管して、最初にのり種を着けて成長したのりの摘採回数が増えてのり質が落ちたり、のり特有の病害やプランクトンの増殖で栄養塩が低下しのりの色が薄くなった場合、冷凍していた海苔網と取り替えて初摘みと同じ質ののりを養殖する冷凍網技術等を開発するなどして、生産枚数を80~90億枚に増やす努力をして来ました。

しかし、高度経済成長期には同時に多くの嗜好食品が海外から輸入され、日本の食生活は洋風化して大きく変貌しました。食生活の洋風化に伴い、乾物を主体とする日本古来の伝承食品(家庭で世代によって受け継がれる調理食品)で構成する体質維持に必要なバランスの取れた日本食(和食)が食卓に姿を見せる機会が減少して来ました。同時に、贈答用品のトップの座を占めていたのりが乳製品(バター、チーズ等)、嗜好飲料(コーヒー等)、肉製品(ハム、ソーセージ等)に取って変わられるようになりました。

その結果、のり需要は次第に減少し始め、生産数量は増加に向かうが需要は減少に向うというのり養殖漁業にとっては厳しい状態が生じました。また、平成3年の消費税施行による食品業界の低価格販売競争にのり流通業界も巻き込まれ、低価格量販が進み産地価格も下落の一途を辿りました。贈答用商品、家庭用商品など良質商品の売れ行きが減少しましたが、コンビエンス・ストアを始め「のり巻きおにぎり」などの業務用商品の原料としての販売が増加して、のり養殖漁業が何とか救われるという状態になり、今日までその影響は続いています。

こうした経緯から、のり生産は上質の商品から全体の約60%を占める業務用にシフトするようになり、寒中の海上で寒風に吹きさらされながら充分な手を加えて上質のりを生産してもそれに相応する価格にはならないため、後継者もなかなか育たないという状態になり始めています。

このような現状から抜け出す手立てを見出そうとのり漁家も懸命ですが、現在ののり共同システムには「全量集荷、全量販売」という入札指定商社との販売契約があるため、手を掛けておいしいのりを生産しても、地元消費者にさえ直接販売することが出来ません。他の農水産物では、生産した人の顔が見える直接販売で試食をしながら産地のおいしさを伝えることで、消費者に安心と安全を伝える販売方法が増えています。

現在の市販のり商品は透明の袋、アルミホイルの袋などに包装されていて、直接のり質の確認や味見をするようなことは出来ません。現在は、①生産地で②試食をしてもらいながら、③作った人たちが直接味の良さやのりの焼き方、保存方法、おいしい食べ方の調理方法を説明しながら、販売するのり販売の原点に立ち返った方式が重要になってきています。

市販の状態を見ていると、のりのおいしさが分からず、低価格商品に偏った買い方がされているようです。「おいしいのりの価値」を伝えながら、上質のりの価値を知ってもらうことが、上質のりの需要増加につながるのではないでしょうか。そのための一つの方法として、のり養殖漁家が産地から価値を発信できるような方式を現在ののり共販システムに一部でも取り入れる改革が必要ではないでしょうか。

「やまもりフェスタ2006」会場に参加したのり生産団体ののり販売の様子
2006年2月26日、福岡・朝倉市(当時甘木市)の「あまぎ水の村文化会館広場」で開かれた「やまもりフェスタ2006」会場に参加したのり生産団体ののり販売の様子。
2 のり原藻の食材利用研究が課題

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