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リレーエッセイ 2012・夏
海藻の機能性あれこれ 4/4/天野 秀臣
見つかった抗アレルギー成分
図1. フロロフコフロエコ-ル‐Bの構造
図1. フロロフコフロエコ-ル‐Bの構造

陸上植物のポリフェノールは、抗アレルギー作用を含めて多くの生理作用が知られています。サガラメも多くのポリフェノールを含んでいるので、有効成分がポリフェノールである可能性は高いと考え、有効成分の単離と構造決定をすることとしました。サガラメのメチルアルコール抽出物を各種クロマトグラフィーで分離し、質量分析法(MS)と核磁気共鳴分光法(NMR)を用いて構造解析をした結果、6種類のポリフェノールが有効成分であると判明しました。そのうち5種類は既知の物質でしたが、残り一つはこれまで発見されたことのない新物質で、抗アレルギー効果も最も強く、フロロフコフロエコ-ル‐Bと名前をつけました。その構造は図1のとおりです。

図2.アレルギーの抑制と促進の関係
図2. アレルギーの抑制と促進の関係

これら6種類のポリフェノールが抗アレルギー活性を示す機構は、第一は、ヒスタミンの放出抑制が起きること、第二は、リンパ球の一つであるヘルパーT細胞が持つ二つの型(リンパ球Th1型とリンパ球Th2型)のうち、Th1型の活性が優勢になり、アレルギーが抑制されることです。具体的には、Th1型はリンパ球の一つであるB細胞にIgG抗体を作らせて、細菌やウイルスなどの異物を攻撃、破壊して感染を防御するとともに、Th2型のIgE抗体産生を抑制します。Th2型はカビやダニなどに反応し、リンパ球のひとつであるB細胞にI型アレルギーを引き起こすIgE抗体を作らせます。通常、このTh1型とTh2型は、バランスを保って免疫反応を制御していますが、何らかの原因でTh2型が過剰になるとIgE抗体がより多く作られて、アレルギー疾患が生じます。この関係を図2に示します。

今回のラットの実験では、Th1型の活性が約3倍に上昇し、Th2型 の活性はやや減少したので、サガラメのポリフェノールは抗アレルギー性をもつことが分かりました。このサガラメの有効成分を含むものを試飲したところ、花粉症によく効く結果が得られました。その後、サガラメを原料とするものが共同研究先の食品会社から製品化され、花粉症の症状の緩和に利用されるようになりました。当初、食物アレルギーに有効な海藻を探す予定でしたが、結果的には花粉症に有効なものが見つかったことになります。

 

おわりに

サガラメの花粉症予防効果は一つの例ですが、海藻には前述のようにさまざまな生活習慣病を予防する効果が知られており、それぞれの有効成分もかなり分かっています。栄養的には海藻はエネルギーが少なく、脂質も非常に少ない食品です。一方、ビタミン、ミネラル、水溶性食物繊維の供給源としては大変優れています。我が国の食用海藻にも様々な種類があり、それぞれの海藻で機能も異なりますので、多様な海藻を利用されることが望ましいと考えています。

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執筆者

天野 秀臣(あまの・ひでおみ)

一般財団法人海苔増殖振興会評議員、三重県保健環境研究所特別顧問、三重大学名誉教授(元三重大学生物資源学部長)、農学博士

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