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産地を追って no.13 海苔産業低迷脱出へ再考の時

2 海苔流通の現状と問題点

海苔の入札から消費市場への流れは、各県の漁業協同組合連合会(又は県漁業協同組合)が県内で生産された海苔を集荷して入札会を開き、等級毎に最も高値を付けた入札指定商社が落札する方式です。集荷して入札会を開く団体の事を共販体、入札会の事を共同販売(略して共販)と言います。

海苔流通の専門業者(海苔商社)の中から販売力などを勘案して入札指定商社を選定し共同販売を行なうことは、生産者の利益を保護し、海苔養殖業を育成する上で当然だと思いますが、入札指定商社と共販体との契約内容には改善すべき課題が多くなっていると思います。

入札指定商社と共販体の契約書には通称「全量集荷・全量販売」といわれる条文が入っています。一例を示すと次の通りです。

「乾海苔入札及び売買契約書」
第2条 1.甲(共販団体)はその所属会員により生産される乾海苔全量を集荷するように努め、これを指定商社(甲により入札参加資格者と認められた商社)に優先的に売り渡すものとする。

「海苔共販に関する確認書」
1.入札指定商社の資格条件について
(4)指定商社は、甲の乾海苔共販事業に出品された乾海苔以外に、直接、間接を問わず、甲の属する地域で生産された乾海苔の買付を行なわないものとする。但し、甲は甲の属する地域で生産された乾海苔の全量集荷に努め、生産者代表との間でその旨を明記した覚書を取り交わし、その写しを九州地区漁連共販の開始前までに乙(入札指定商社組織)に提出する。

この内容は、昭和34年に全国に先駆けて九州地区の海苔共販漁連によって組織された「全九州乾海苔共販協議会」と九州全域の入札会に参加できる指定商社の任意組織「全九州地区海苔入札指定商組合」との間に交わされた内容を今日まで引き継いで来たものです。

当初、全国生産枚数が70億枚相当の時代は売り手市場でした。その当時は、入札権を持たない海苔業者が生産漁家を訪れて直接買い付ける「浜買い」という行為が盛んでした。そのため、入札権を得ている商社の商圏を低価格で侵害することが多く、それを防ぐために取り交わされた条文でした。

しかし、現在は買い手市場であり、入札価格はいわば入札指定商社の思い通りになっている状態です。また、入札会の実施方法も数社の商社がグループを作り、そのグループで応札価格を決定して入札する方法であり、グループのリーダーである数社の意向にそって価格が形成されることになります。

共販制度が出来た当時は海苔を買えば必ず利益が出る時代で、海苔商社間で激しい入札価格競争が行なわれ、45社に上る海苔指定商社それぞれが入札していました。入札は1社ごとの入札手板(海苔の等級と箱数を記入した小冊子)に記入された商社毎の入札価格を共販漁連の職員総がかりで読み合わせして最高価格を決定し、マイクを通して発表する方法だったため、長時間を要し生産数量が多い産地の入札会の結果処理は深夜におよびました。

グループでの入札はそれを解消するための一つの方法でしたが、現在では、コンピューターで1社ごとの入札価格が瞬時にまとめられる時代です。

宮城県、千葉県、愛知県、三重県などの東日本地区は元々個別入札方式を取っており、現在では1社ごとに端末の入札価格投票機を設置しています。しかし、瀬戸内地区、九州地区などの大生産地区では、まだ個別投票機の設置は行なわれていません。

また、生産数量が大きな地区では、入札単位である1つの等級が1,000箱(1箱には海苔が3,600枚入っています)以上になることが多々あります。需要減退の時代に入り、そのような大きな数量は1社では買えなくなっています。この海苔を1,000箱ではなく数百箱買いたい場合は、同じグループ内で分け合える商社がいれば共同で買い、グループ内に共同購入をする商社がいない場合は他のグループの親しい業者と共同入札することもあります。いずれにしても、多数の競争原理によってではなく、数社の意向で価格形成されることになります。

こうした動向が小売部門の販売競争を激しくさせ、低質品を低価格で販売することになり、海苔需要をさらに減退させる原因にもなっていると思います。

また、コンビニエンスストアのおにぎり需要も多く、現在のようにポリセロに海苔を包装し、食べる時に包装された海苔を取り出して御飯を巻いて食べる包装技術が開発されて、柔らかく歯切れの良い海苔が原料として重宝されるようになりました。その結果、コンビニおにぎりの包装食材としての海苔需要は大きく伸びています。

一方、多くの食品が低価格で販売される現在、上質で価格が高い海苔製品は大型量販店では販売量が少なく、入札価格も業務用に向く質と納入価格に合う程度に抑えたものになっています。

現在の売れ筋の主力は低質で低価格の海苔になっていますが、それは全国の生産状況を反映したものです。手間を掛けた上質海苔を生産しても、生産枚数は少なく、それなりの価値を認めた高い価格で入札される事は少なくなっています。そのため、芽伸びを良くして1網当りの生産枚数を増やして、枚数で金額を上げなければならない生産状態になっているのが現実です。それが一般家庭での消費に向く商品の質の低下にも繋がっています。

表現は良くありませんが、海苔産業全体が「低くきに流れる負のスパイラル」に入りつつあるのではないかと危惧しています。今ここで何とか需要減退、低質海苔生産に歯止めを掛けることが出来ないか、何とか知恵を絞らなければならい時期にあるのではないかと思います。

3 需要、市場開発に関する海苔産業の展望について

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