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産地を追って no.13 海苔産業低迷脱出へ再考の時

3 需要、市場開発に関する海苔産業の展望について

上質海苔の需要が本当に減退しているのか。実際に販売している場面に立ち会ってみました。一つは福岡県宗像市にある「宗像道の駅」での販売です。焼海苔を半分に切って5枚入りの商品に仕立て、1袋250円で販売しました。1枚100円に当たります。試食して頂きながらの販売でしたが、「おいしい」という評価で、500円硬貨を出されましたので、2個を渡しましたところ「ありがとう。おいしかった」と、多くの方がそのまま持ち帰られました。県の水産振興課の方と一緒に販売したのですが、「千円札が出たらどうしよう」と話しながら販売していると、本当に千円札が出ました。だまって4個差し出しました。「ありがとう、おいしかったよ。こんなおいしい海苔どこで売っているの?」と聞き返されて慌てましたが、組合名を伝えて問い合わせて頂くことにしました。

また、今年2月末のことですが、博多阪急で「九州・新海苔まつり」を開催しました。海苔加工業者、漁協など6社が会場で販売しました。その中に熊本の漁協から「手漉き 天日乾し海苔」を出品して頂き販売しました。初摘み海苔の手漉き天日乾し海苔を1枚・120円(10枚入り・1,200円)で販売しました。3日間の開催期間中に数は少なかったのですが持参した商品を2日間で完売しました。

また、熊本―三角間の有明海沿岸を走るJR九州の観光列車「A列車で行こう」の海苔漁場沿線の漁協に「天日干し」の風景を作ってもらい、海苔の生産地である事をアピールする車窓の風景演出も行われています。

博多阪急での「天日乾しのり」販売風景
北九州市「こどもの館」での「親子絵巻教室」終了後会場での海苔試食販売
(写真左)博多阪急での「天日乾しのり」販売風景。(写真右)北九州市「こどもの館」での「親子絵巻教室」終了後会場での海苔試食販売。
のり漁家5~6経営体による協同事業の製造設備
(写真)熊本県宇土市沿岸を走る観光列車「Aトレインで行こう」の車窓風景として沿線に「天日乾し海苔」の風景を演出し、海苔産地であることをアピールすることも行われています。

生産地の姿を見せる試食販売で、おいしい海苔は売れるという確信を得ました。「おいしい海苔は高いから売れない」という思い込みを持っているのはむしろ販売業者ではないかと思います。半分に切った海苔5枚入りを250円で販売しようと言った時、漁協の理事さんの間から「高すぎる。180円から200円程度でどうか?」という意見が出されましたが、生産者が夜明け前の寒空の海の中で作り出した自分の海苔に対する価値を低く見てしまうのも、現在の共販の低価格にならされてしまっているからではないかと感じました。

流通業者(販売業者)に頼った販売で、生産漁家も共販にさえ出せば「安くても金になる」という感覚が強くなっているのではないかと思います。「全量集荷・全量販売」の仕組みの中では、美味しい海苔作りに打ち込む「海苔師」がますます減少するでしょう。海苔産地での需要促進PR活動も今後大切になります。

現状の共販制度を維持しながら、上質海苔を共販で販売する手立てを考えなければなりません。上質海苔を販売している販売業者もいます。しかし、これらの業者は経営規模が小さく、大量に高価格で買うことは出来ません。せいぜい50箱以内程度です。1枚50円で入札しても1箱に3,600枚入っていますから、1箱18万円になります。50箱買うには900万円の買付資金がいります。1年間の販売予定数量を仕入れるためには、数千万円から数億円の資金が必要です。それを、漁期中の11月から翌年4月までの6ヶ月間に仕入れて年間販売して行くわけです。共販期間を延長するということも販売方法の一つではないでしょうか。

このような販売業者には、共販体(県漁連、県漁協)がバイヤーになって、うまい海苔作りに取り組むグループを育て、おいしい海苔販売に努力している業者に販売を繋ぐ方法を考える必要があります。そのことが、上質海苔作りを拡げる手立てにならないでしょうか。

また、現在の売買契約の中には、「下物を買わない、売らない」ということもあります。下物については、入札商社が1枚3円に値しないと決めて入札しなかったものを「札なし」としてあえて販売せずに次の入札会にもう一度出品して、再び「札なし」になった海苔は処分(通常焼却)することになっています。そのため、漁場の栄養塩がなくなり黄色以下に色落ちした海苔は、摘採を諦めて網揚げまで漁場に放置するか、網揚げの際に海中に切り捨てる行為も見られます。こうした行為を取り締まるために、漁協・漁連の監視船、海上保安庁の監視船が漁期終了近くなると漁場を巡回しなければなりません。

今、一部で動きが見られるのは、海苔の成分を利用した健康食品、化粧品、調味食品などの開発です。しかし、研究開発費が高くつき、商品化しても販売ルートが少なく、苦労されているところが多いようです。

海苔の成分を利用した食材開発は今後重要になってくると思いますが、商品化しても開発コストが高く、異業種とのつながりが少ない海苔産業界にとっては販売ルート開発もネックになっているのが現状です。

海苔の原藻を利用した開発については、「全量集荷・全量販売」の対象から外れています。それは、指定商社との売買契約に附属する確認書に次のような「乾海苔規格」があるためです。

「海苔共販に関する確認書」
8.乾海苔の規格
(1)共販に出品する乾海苔は、漁連が定めた「乾海苔格付規格」による。
(2)海苔判は、原則として縦21cm、横19cmとし規格に合わないものは規格外品とする。

つまり、共販のために集荷するのはあくまでもシート状に抄き上げた製品だということになります。原藻段階の利用は制限されていません。この原藻段階で、特に色落ちした下物の原藻を漁場から引揚げ、少しでもお金になる方法を考えなければなりません。

残念ながら、この部分の開発が手付かずのままになっています。産学官の共同研究がなかなか進みません。しかし、海苔の含有成分はこれまでも部分的には色々と研究されています。ただ、市場に活かされる商品化がなかなか進まないのが現状です。

通常、海苔の成分開発というとシート状の海苔が中心でした。今後は海苔の原藻を中心にした、食材としての開発が必要になるのではないでしょうか。

農林水産省でも農林水産技術会議の事業の一環として、医学、理学、工学、ITなどとの異分野連携による「農林水産物由来の物質を用いた高機能性素材等の開発」に関する研究戦略検討会を開催しています。海苔産業界ではこれらへの関心が薄いので、今後色々な外部の活動に目を向けて、海苔原藻由来の異業種との連携を深めて行くことが課題であり、将来への展望を開く道に繋がるのではないでしょうか。

4 輸出の増進

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